[携帯モード] [URL送信]
雨〜涙の出来事



雨〜涙の出来事



貴方の声は、いつも俺の心を激しく揺さぶる。
甘い甘い、毒。
ならば、その毒で俺を殺してください。
貴方のことしか考えられないように。
貴方にしか、触れることができないように。

 - * - * -


それは突然だった。
憂鬱に窓の外を眺めていると雨で視界が悪いにも関わらず映った姿。
もう、会えないと思っていた。
三年も前に全てを曝け出して抱かれた相手。
強い力で引き寄せられ奪われた。
だからもう、それだけでいいと、そう思っていたのに。

「コナツ」

その、声。
腰にくる低いその声。
あのときも、思ったのだ。
こんな声で自分は呼ばれていたのだろうか、と。
こんなに淫靡で、扇情的な声で呼ばれていたのかと。

「何ですか?」

感情を押し殺して答えれば、何か楽しそうにクっクっと笑う。
その声さえ、ぞくぞくと身体の中心に響き、コナツの心をぐちゃぐちゃに掻き混ぜた。

「怒ってる?」
「別に」

もうとっくに諦めていたのに。
だって変でしょう。
男同士が、身体を重ねるなんて。
愛し合うなんて。

「会いたかった」

耳元で囁かれて、コナツは大きく肩を震わせた。
大きく高鳴る自分の心臓の音が嫌でじりじりと後ずさりをすれば、難なく壁際まで追い詰められてしまう。

「な、……にいって……」

こくりと息を飲めば、コナツがそっと頬に触れてきた。
身体を捩って逃げれば、後ろから抱きすくめられる。
甘い香の匂いに、ぐらりと視界が歪んだ。

「コナツは忘れられたの?」

その声を聞きたくなくて耳を塞ごうとすれば、させまいとその腕を絡めとられる。
嫌だと首を振れば、そっと耳朶を甘噛みされた。

「や……っ! 離して下さいっ!」
「俺がいない間、寂しかった?」

その言葉に、コナツの身体は抵抗をやめた。
今更なぜそんなことを、貴方が言うのですか。
三年の間、一度も会いにこなかった貴方が。
ズキっと心が痛くなった。

「……すれた」
「ん?」
「貴方のことなんて、忘れました!」

断ち切るように叫ぶと、コナツはヒュウガの腕を振り払った。

「ふーん」

コナツの激昂とは裏腹に、ヒュウガは気のない相槌を打った。
コナツは瞳を固く閉じ、踵を返す。
しかし、部屋を出て行こうとするコナツの腕をヒュウガが掴んで引き寄せた。

「何す……っ!」

抗議をしようと顔を上げれば、ヒュウガの視線に絡めとられてコナツは息を飲む。

「じゃあ、コナツ」

抱きすくめられ、ヒュウガの唇がそっとコナツのそれに重なった。

「忘れたなら思い出させてあげる……三年前のあの夜のこと」

その言葉に、コナツは金縛りにあったように動けなくなった。
ヒュウガに触れられた体は、コナツの意思とは反して熱を帯びていく。
ヒュウガに甘く囁かれれば、ちっぽけな理性は意図も簡単に崩れていった。
溶かされ、乱されていく。

「……ヒュ、ウガ、さんっ!」

気づけば、ヒュウガの名を譫言のように繰り返す自分がいた。
忘れたくても忘れられるはずもないことを解っているくせに、わざわざまた手酷い刻印をコナツの身体に刻もうとしている男。
あの夜のことを忘れられたなら、自分たちはどんなに幸せだったのだろうと、コナツは不意に思う。

「愛してるよ、コナツ」

鼓膜を振るわせたその声は、すっとコナツの心に入り込み、その全てを侵食していく。

「すきです……ヒュウガさん」

小さく小さく、コナツは呟いた。
どうか聞こえませんように、と誰かに祈りながら。
窓の外では、雨が絶え間なく降り続けていた。



*END



BACK/TOP







第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!