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その瞬間、恋に落ちた



その瞬間、恋に落ちた



欲しいものを見つけた。
欲しいなぁって呟いたら、待ってて下さいそう言われて。
店の中に入って行った太裳を目で追っていた。

- * - * -


いつも優しい。
何にでも気が付く。
最高で最愛の人。

――――だけど
俺は大きな溜め息をひとつ吐いた。
何をしても怒らない。
時々、不安になってくる。
太裳は怒らずにたった一言だけ言う。
俺ってなんとも思われてないのかな?
こんなに好きなのに遠く感じる。
急に居なくなったら、心配してくれるかな?
思うのと同時に俺の足は、どこかに向かって歩き出していた。
誰も知らない太裳。
俺だけが知っている太裳の優しさ。
その瞬間、俺は太裳に恋した。
気が付くと、俺は公園の前にいた。
目に映ったベンチに俺の足は自然と向いていた。
ベンチに腰掛けて、空を見上げた。
鉛色の雲。
今にも雨が降りそうな様子だった。

「もう駄目かな……」

自分で言った言葉なのに哀しい。
瞼の裏が熱い。
とまらない感情が溢れて、視界が滲んでしまった。
涙は止まらず、頬をつたっていく。
俺の頬に雨粒が二、三滴落ちて涙を流してくれた。

「……終わりなの、かな……?」
「終わりではないですよ」

不意に聞こえた太裳の声。
いつの間に来たのだろうか。
ベンチの後ろに立っていた。
俺の頬を打つ雨が強くなってきた。

「だ、じょ……どうして……?」
「どうしてじゃないです……待ってて下さいって言っいましたよ?」

そう言った太裳の表情は真剣だった。
俺が濡れないように後ろから傘をさして、じっと俺の目を見ている。
さっきまで泣いていたから、赤く腫れているのかもしれない。
太裳は、俺の目元に一度唇を落とした。
その優しい動作に一瞬、戸惑ってしまう。

「心配しました」
「……ごめん、なさい」

迷惑を掛けた自覚はある。
でも、太裳にとって俺はどれだけの存在か知りたかった。
ただそれだけ。

「私には昌浩しかいないんです」
「本当に俺だけ?」
「初めて会った時から私には昌浩だけです」

そう言うと太裳は、昌浩をきつく抱き締めた。
確認するように。
強いけど、優しく包むように。
少し戸惑った後、昌浩の腕がゆっくりと太裳の背中に回された。

「……好き」
「私も愛してます」

二人は愛を確かめるように口付けを交わした。



*END



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