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桜ノ花ビラ



桜ノ花ビラ



胸の真中辺りがキューってなって苦しい。

- * - * -


帰りのHR。
俺は先生の話に一度も耳を傾ける事なく、じっと時計を凝視していた。
お決まりのチャイムが校舎に響きわたる。
学級委員長が起立、礼、さようならとこれまたお決まりのフレ―ズを言い、俺は急いで鞄を手に取った。

「昌浩、もう帰えるのか?新しいCDショップ寄らねぇ?」
「ごめん!また、誘って」
「もしかして、デ―ト?」
「違っ!」
「今度奢れよー!」

友達の誘いを断って、廊下を駆け抜けて下駄箱に直行。
上履きからロ―ファ―に履き替えた。
暑いからブレザ―を脱いでYシャツを腕まくり。
地面を強くけりだして校門へ向かって一直線。
息を切らせながらも待ち合わせの公園に着いた。
散ってく花びらの向こうの一番大きい桜の木の下に居る人。

「玄武っ!」
「昌浩!遅かったな」
「玄武が早いんだって!俺、全力疾走で来たんだよ!」

昌浩らしいなと呟く玄武の隣に俺は腰を下ろした。
無邪気に桜が風に煽られて舞い散る。
俺は立ち上がって、柏手を打った。

「昌浩……?」
「あーっ!……難し」
「……何が?」
「花びらキャッチ」

当たり前のように言って、俺はにっこり笑顔を作った。
玄武も立ち上がり、花びらを掴もうと跳ねる。
ハ―トの形をしたピンク色の花びらがひらひら舞う。
あったかい日差しの陽気が降り注ぐ。
さっきと同じようにまた強い風が吹く。

「うわっ!」

地面に何かが叩きつけられる音がした。
恐る恐る俺が目を開けると、目の前に玄武の顔、その後ろに蒼い空とピンクの花吹雪。

「あ」
「すまぬっ……大丈夫か?」
「うん、大丈夫……っ」

差し出された手を掴んで、昌浩は立ち上がろうとする。
しかし、図ったように二度目の強風が吹いた。
またバランスを崩して、今度は玄武が俺の上に倒れる。

「っぷ……」
「あははははっ!」

面白おかしくてつい噴出してしまった。
二秒くらい笑って、はぁと溜め息を吐く。
昌浩、と玄武が上から呼んだ。

「何?」

と目に笑い涙を溜ながら玄武を見上げた。

「桜、付いてる」
「え、嘘?あ、玄武も」

くすくすっと笑いながら、髪の毛についた桜の花びらを取る。
だけど、どんどん花びらは散って取っても取ってもきりが無い。
昌浩の黒い髪に桜の薄いピンクがよく映えていた。

「俺(我)は……」

見事に俺と玄武の声がハモる。
きょとんと目を合わせて、またぷっと噴出す。

「玄武(昌浩)が好きだ」

ざぁっと花びらが散る。
お互い、少しだけ頬を赤らめる。

「はは……あはははっ……」
「なぜ笑うのだ?」
「だって……玄、武…絶対恋愛とか……疎いから……」

心外だと言わんばかりの顔をして、玄武が昌浩を抱き締めた。
ギュッと抱え込むようにして。
そのうちに、あっと昌浩が小声を漏らした。

「見て見て、空の洪水」
「本当だ」

二人とも寝転んだまま空を見つめた。

「昌浩、苺の匂い」
「あ、多分これ」

そう言って、昌浩はポケットから苺の飴を取り出した。
明るい笑い声が、また空を泳いだ。


蒼とピンクのコントラスト


桜の花びらが空を覆う――



*END



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