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君の知らないこと



君の知らないこと



単衣姿の昌浩は、自室で書物を読んでいた。
そろそろ寝ようかと思っていた時だった。
急に視界を掠めた白い物の怪を凝視する。

「もっくん」
「なんだ?」

昌浩は、目の前で尻尾をひらひら振っている物の怪を抱き寄せた。
白くて、ふわふわした毛を撫でてやる。
気持ちよさそうにされるがままになっていた物の怪は、昌浩の腕の中でうとうとし始めた。

「最近、寝てなかったでしょ?」

昌浩が聞くが、物の怪は何も言わない。
気になって物の怪の顔を覗き見ると規則正しい寝息をたてていた。

「寝てる……」

物の怪は過保護で、まるで子離れできない親のようだな、などと一人考え込んでいた。
普段はまったく重さを感じさせない物の怪は、今だけ少し重みがある気がした。
あれから、ずいぶん時間が過ぎた。
今だ眠ったままの物の怪をうとうとしながら見ていた昌浩の視界が、急に暗くなった。

「んぅ……っ!?」

ひんやりと冷たいものが当てられていて、それが何かはわからなかった。
ただ、せっかく眠りにつきそうなところを邪魔されて、少し苛ついていた。
しかし、よくよく考えて見れば、それが手だということに気づく。
こんな悪戯めいたことをするのは、紅蓮だけだ。
しかし、紅蓮は昌浩の腕の中で眠っている。
では、誰だ。

「ぅ……ん、六合?」

パッと視界が明るくなって、六合なんだなと思い振り返った。
しかし、そこには六合ではなく、青髪をひとつに結んだ青年が片膝をたてていた。

「えっ!ぎゃあ!青龍?!」

昌浩は驚きのあまり、立ち上がって後退った。
膝上で寝ていた物の怪が、ドサッと音をたてて落ちたのも気にせずに。

「うぉっ!なんだ、なんだぁ?」

寝ぼけ眼で辺りを見る物の怪の夕焼け色の瞳に嫌いな奴の顔が映った。
腑抜けていた表情は一気に掻き消え、物の怪は鋭い目つきで青龍を睨んだ。

「貴様っ!なぜここにいる!」
「お前には関係のないことだ」

そう言うと青龍は立ち上がり、昌浩に近づいた。
昌浩はなぜか後退った。
しかし、背に壁が当たり、完全に青龍に追い詰められる形になっていた。
至近距離で昌浩の顔をじっと見ている青龍は、昌浩の細身の身体を抱き寄せた。

「あっ……えぇっ!ちょっ……」

あまりにも突然で、戸惑う昌浩を後目に青龍は強く抱き締める。
遠くの方で物の怪が抗議の声を上げているような気がした。
肩から単衣が、ずり落ちた。
青龍は露わになった肩に噛み付くように口付けて、赤い痕を残す。

「せい、りゅ……やめろっ!」

腕に力を込めて押し返すと、昌浩はずり落ちた単衣を元に戻した。
肩に残る甘い痺れを感じながら、頬を真っ赤にしている昌浩。
こんな姿を無自覚でやるから、怖いのだ。
いつ、どこで襲われても文句は言えない。
それくらい可愛いのだ。
やがて、目尻に涙を溜めて、今にも泣きそうな昌浩は振り絞った声で言った。

「青龍、のこと好き、だけど……こういうことする青龍、嫌い……」

とうとう昌浩は、泣き始めてしまった。
慌てた物の怪が昌浩の肩に飛び乗り、頭を撫でてやる。
それでも涙はとまらず、流れ続けている。
本格的に苛ついてきた物の怪は、青龍を睨みつける。

「……昌浩を泣かせた罪は重いぞ」

物の怪がそう言うと、青龍は隠形した。

「せいりゅ、が……なん、で……」

不意打ちをくらった昌浩は涙はとまったが、唖然としていた。
嫌われていたのではなかったという事実と、泣いてしまったことへの後悔。

「昌浩?」
「……もっくん、もう寝よっ!」

そう言うと昌浩は茵に潜り込んだ。
昌浩は知らない。
物の怪も知らない。
二人(一人と一匹)が寝静まった頃、もう一度青龍が現れたことを。
そして、昌浩の額に口付けを落としたことも。



*END



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