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君に甘い、君は甘い



君に甘い、君は甘い



六合と昌浩では頭三つ分、六合の方が背が高い。
先程から六合の腕にまとわりついている昌浩は、六合と並ぶとまるで子どものようだ。
いや、実際にまだ子どもなのだが。
これでも昌浩は、今年の春には中二になる。

- * - * -


「ねぇ、六合……どっか行きたいなぁ」
「……」
「ねぇ、行こ?」

六合の腕をぶらぶら振りながら、昌浩は言った。
下から覗き込んでくる昌浩の頭をくしゃりと撫でてやる。
擽ったそうな顔をする昌浩に六合は微笑まし気に目を細めた。

「比古がね、遊園地のチケットくれたんだ」

そう言って鞄の中を探り始めた昌浩を六合は、自分の胸に抱き寄せた。
そして、額に口付けを落とす。

「んっ……六合?」

頬を少し赤く染めて昌浩は、六合を見上げる。
何とも言えない愛らしい仕草で、これでは行くとしか言えないではないか。

「行くか……遊園地」
「うんっ!」

その言葉に昌浩は、満面の笑みを浮かべた。
次の日は、あいにくの雨だった。
当然ながら、遊園地に行くのは延期。

「つまんない……」

窓辺にひとり頬杖ついて、昌浩は呟いた。
昌浩は今日、六合と遊園地に行くのをずいぶん楽しみにしていたのだ。
当然と言えば、当然である。
窓の外では、ザァザァと音をたてて雨が降り続けている。

「昌浩」
「……つまんない」

六合の呼びかけに対しても、昌浩は呪文のように同じ言葉を繰り返した。
頬を膨らませて本人は睨んでいるつもりなのか、可愛い顔をして雨を見ている。
内心では安堵していた六合だったが、可愛い恋人の悲しむ姿に胸を痛めていた。

「昌浩、買い物に付き合ってくれ」

突然、六合から誘ってくるものだから、昌浩は酷く驚いていた。
普段はあまり喋らないし、まして自分から誘ってくるなど滅多にない。
昌浩は大きな目をぱちぱちさせながら、六合を見上げる。

「……六合?」
「嫌ならいいんだが?」
「嫌じゃないよっ!うん、行きたい!」

あたふたと両手を振る昌浩のその手を握り、手の甲に口付けを落とした。
六合の行動に驚いた昌浩は、耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。
俯いた昌浩の前に六合は右手を差し出した。

「……行くぞ」

六合の顔と差し出された手を昌浩の視線が往復している。
やがて、じれた六合が昌浩の手を握ると強引に引っ張った。

「り、六合……っ!」

今の六合には、昌浩の声は届いていなかった。
玄関まで引きずって行くと昌浩の手を離した。
強引に引っ張ったせいで、昌浩の白い手首は赤くなっていた。
赤くなった昌浩の手首を見て、我に返った六合。

「すまない……」
「え?あぁ……大丈夫、平気だよ?」

本人は平気そうな顔をしている。
しかし、赤くなった手首を見ると痛々しくて仕方がないのだ。
自分でつけてしまったのに今になって後悔した。

「六合、早く行こ?」
「……あぁ」

声をかけてきた昌浩は靴を履いて、六合を待っていた。
靴を履き終えた六合は、傘を片手にドアを開けた。
一方の昌浩は、傘を持たずに出ようとしていた。

「昌浩、傘を」
「え?いらないよ、六合の傘に入るからいらないでしょ?」

まるで、それが当たり前のように言う昌浩を六合は広げた傘の中に入れた。
すると、昌浩はぎゅっと六合の左腕に両腕を絡ませてきた。
よく街で見かけるカップルのあれだ。

「相合い傘、やりたかったんだ」

本当に嬉しそうに腕にしがみついている昌浩は、小さく言った。
六合は少し嫌そうにしていたのだが、結局は別にいいかと思ってしまうのだ。

「(嗚呼、俺は昌浩に甘いな……)」

そう思うのだが、厳しくしようとも思わない。
厳しくすれば、こんな顔は見られなくなるかもしれないし、嫌われるかもしれない。
それだけは、嫌だった。

「六合……遊園地やっぱりいいや」

急に立ち止まった昌浩は、言った。
あんなに楽しみにしていたのに急に行かないと。
訝しげに昌浩を見ると昌浩は笑っていた。

「……どうした?」

先程との変わりように心配して、六合は声をかけた。
昌浩が一生懸命背伸びしているので、六合は少し屈んでやった。
すると、昌浩は耳元で小さく囁いた。
小さく囁かれたその言葉に少なからず驚いたのは、間違いなく六合であった。
さっきまで晴れる気配がなかった空に少し晴れ間が覗いていた。
もうじき、雨はやむだろう。



『だって六合、ジェットコースターとか苦手なんでしょ?』

そうやって簡単に人の心を見透かしてしまうんだ。

「昌浩、遊園地……今度連れて行ってやる」

お前と一緒なら大丈夫だ。
だから、行こう。
嗚呼、やっぱり俺は昌浩に甘いな。



*END



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