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重い瞼を上げる。
ここはどこだ?

目の前にぼんやりと見える人影。
だが、それは鏡に映った自分の姿だと認める。
そして安堵の息を漏らしたときだった。

鏡の向こうの“俺”が言葉を発したのだ。

『お前は、なぜここにいる?』

聴こえてきた声音は、自身のものそのものだ。
昌浩は目を丸くして、疑問を投げかける。

「君は誰?」
『俺はお前』
「じゃあ、俺は?」
『お前は俺自身』

鏡の向こうの“俺”は不敵な笑みを浮かべた。
刹那、昌浩は胸が熱く焼けるような感覚に襲われた。

「……っ!はぁ、ぁ……っ」

息が上手くできず、声がだせない。
立つことさえできなくなった昌浩は膝を折り、地についた。
胸は焼けるように熱いのに手はどんどん血の気を失っていく。
そして、自分の奥底で何かが弾けるような感覚。

怖い。

自分と同じ顔が鏡の向こうで、じっと恐ろしい形相で睨んでいた。
何かの恨みをぶつけるように殺意を剥き出しにした目だった。
そして、その鏡の中の“俺”の手は血で赤く濡れていた。


昌浩は、地についた手にぬるついた感触。
それは、鉄くさい匂いを漂わせる。
その不快な匂いで昌浩は、瞬時に自分の周りに赤い血が広がっていることに気付いた。
しかし、昌浩は傷ひとつ負っていない。


では、一体この血は誰のものなのか?


視線を廻らせば、いつも隣にいた白い物の怪の姿を遠くに見つけた。

「もっくんっ!」

物の怪はピクリとも動かない。
昌浩は今だ動かぬ身体を無理やり動かし、物の怪のもとへ駆け寄る。
そこに膝を折り、物の怪をそっと腕に包み込む。



冷たい。



温かい筈の物の怪は氷のように冷たくなっていた。
このとき、昌浩は初めて気付いた。



物の怪が息をしていないということに。


何が起こったのかわからず、昌浩は物の怪を抱いて、逃げ道を探す。
だが、逃れようにも四方を鏡で囲まれたこの空間から逃れることは叶わない。

「俺は、俺は……一体、何をしたんだ……?」

腕に抱いた物の怪をより強く抱く。
昌浩の手についた血が、物の怪の白い毛を汚した。



*END



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