[携帯モード] [URL送信]
さよなら、こんにちは



さよなら、こんにちは



お前は、今ここにいない。
俺の目の届く場所にいない。
それが、どうしようもなく寂しいと感じてしまう。
任務を言ったのは俺で、お前がここにいなくても当然なのに。
いないと物足りなくて。

「都合よく帰ってくる訳ない、よな……」

自然と頬を流れた雫が制服の上へと落ちて斑な染みを作った。
自分で行かせておいて後悔するだなんて、馬鹿げてる。
それでも、お前がいないと息をするのも忘れそうになる。

「早く帰って来いよ、雨丸……」

心底、思う。
早くお前の無事な姿が見れることを。
無事に帰ってきたら、潰れるくらい抱きしめて、言い表せないくらいの想いを言葉にしよう。
お前ひとりがいないだけで、こんなにも俺を狂わせる。
この想いと共に、俺はお前をずっと待っている。
冬の寒さは身に凍みるからお前がいないと俺は凍え死んでしまう。

「はい、ただいま帰りました」

ふわりと後ろから温かい腕に抱き込まれた。
それが、ずっと会いたかったお前の腕だとすぐにわかった。
俺が間違えるはずがない。
何年もずっと見つめるだけだった腕。
横たわったまま動かないその肢体を俺は泣きそうになりながら、目覚めを待っていたのだから。

「……ぇよ」
「え?」
「だからっ、遅ぇっつってんだ!」

首の後ろで小さく笑ったお前は、初めて会った頃のようだった。
苦手なことや癖、お前のことは何でも知ってるかもしれない。
何年パートナーをやってると思う。
お前が寝ている間も俺はお前をパートナーだとずっと思ってた。
離れても、眠っていても、パートナーには違いない。
だから、お前は俺が本当に言いたいことくらいわかってくれるだろう。

「すみません……これでも急いで片付けてきたんですよ?」

耳元の、二人で半分にした花のピアスに雨丸はキスをした。
まだ俺はお前が無事に帰ってきた姿を確認したわけではない。
声は元気そうでも、どこか怪我をしているのに黙っていることもあったお前の無事をこの目で確認するまでは安心などできない。

「雨丸……」
「駄目です!駄目なんです……」

少し冷たい手が目元を覆い隠した。
普段、ものを強く言わない雨丸が強く制したのは初めてだったかもしれない。
それほど知られたくないのだろうか。
だけど、そうも言ってられない。
恋人である以上に、雨丸の上司であるのだから。
怪我をしたのなら報告をしてくれないと困るし、心配くらいさせてくれ。

「雨丸、見せてみろ」

振り向かずになるべく優しく言ったが、雨丸は沈黙を守っている。
そんなに年下の上司は頼りにならないのか。
それとも恋人として認めてもらえていないのか。

「何もありませんっ」
「嘘だろ」
「本当です!」
「なら、いいだろ」
「駄目です……あと少しだけ」

目元を覆い隠す手に触れ、退かそうと手首を握った。
けれど雨丸が離そうとしないので、結局諦めた。
見かけによらず頑固な雨丸は、一度決めたことは曲げたりしない。

「あと少しだけ……」
「ちゃんと理由言えよ」
「はい」

記憶の中の雨丸が目を細めて笑った気がした。
大人になった雨丸は、だけどまだまだ子供っぽくて、純粋なところは変わらない。
俺は、そんなところが好きなんだけどな。

「班長……お世話になりました」
「雨丸?」

言っている意味がわからなくて、雨丸の顔を見てその真意を問いたかった。
視界を覆うその手にゆっくりと手をかけた。
さっきまで強く阻んでいたその手は簡単に離れ、視界が明るくなった。
不思議な気持ちだった。
嫌な感じはしないのに何かを忘れてしまっているような気がする。
後ろを振り返り、蜂蜜色の髪を一房掴んで唇を落とした。
見える所に怪我はないが、服の下は怪我をしているのかもしれない。

「今年もよろしくお願いします」

不意に雨丸がそう口にした。
俺はやっぱり意味がわからなくて、時計を見た。
ちょうど日付が変わったところだった。
それでも意味がわからなくて、卓上のカレンダーを見た。
十二月三十一日、日付が変わったから今日は――――

「明けましておめでとうございます」

花が咲いたような笑顔の雨丸が言う。
今日は、正月だ。

「おめでとう……すっかり忘れてた」
「ふふ、班長でも忘れるんですね」

お前のことで頭がいっぱいだったんだ、とは絶対に言ってやらない。

「今年もよろしくな」

今年も、来年も、その先も、パートナーとしても恋人としてもよろしくな。



*END



BACK/TOP







あきゅろす。
無料HPエムペ!