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わかりにくい愛情表現



わかりにくい愛情表現



毎日屋上の庭園で京平先輩と一緒に昼食をとるのが、ここ最近の俺の日課。

「京平先輩……」

俺の作ったお弁当を美味しそうに食べていた京平先輩は、声に反応して箸をとめた。

「何?」

少々上目遣いで聞いてくる京平先輩の姿が、たまらなく愛らしい。
そんなところが好きで付き合い始めたのかもしれない。

「ここに海苔ついてます」

俺は自分の口の横を指差した。
京平は反対側の口元を擦る。
俺はその様子に見かねて、指で拭ってやった。
それをそのまま自分の口に持っていった。

「美味しいですか?」

京平先輩があまりにも夢中になって、お弁当を食べるものだから聞いた。
でも、京平は答えない。
ずっと箸を動かしていて、玉子焼きを挟んで口に運んだ。

「どれが好きですが?俺は玉子焼きに自信があるんです」

いろいろと質問をしてみるが全くと言っていいほど返事が返ってこない。
返ってきたとしても、あぁとか、ふーんとか、素っ気ない言葉ばかり。

「あの、京平先輩……聞いてますか?」

ふと、問い掛けるも返事はない。
あまりにもいい加減な態度に俺の堪忍袋の緒が切れた。

「もうお弁当作りません!京平先輩とはしばらく口もききません!」

京平を無視して、雨丸は手早くお弁当箱を片付けて、足早に待機室へと戻っていった。

「あれ?雨丸、京平とランチじゃなかった?」

待機室に戻れば、そうそうに東が雨丸に絡んできた。
そんな東に雨丸は、はっきり言ってやった。

「嫌になったので戻って来ました」

手にしていたお弁当を自分の机に置くと雨丸は始末書の整理を始めた。
東は呆れた顔つきで溜め息混じりに言った。

「嫌になったって……また、どうでもいいことで雨丸が怒ったんだろ?」

そう、雨丸と京平の喧嘩はこれが初めてではない。
二人はよく他愛もないことで喧嘩してしまうのだ。
だからこそ、今日という今日は許せなかったのだ。

「どうでもいいことなんて……ひとつもないですよ」
「じゃあ、何で怒ったわけ?」
「それは……無視されたから」
「そんなことで怒るか?」

呆れた顔で東は雨丸に言う。
そんなことってそんなこととは何ですか、と言い返したかったがやめた。
今、東と喧嘩したところでどうしようもないとわかっているから。
元はといえば、京平先輩が悪いのだ。
人の話も聞かず、お弁当を食べるから。
そう自分に言い聞かせた。
それでも少々可哀想に思い、屋上へと足をのばした。
そこには固まったままの京平がいた。

「あぁ……」

何だか無性に傷付けた気分にさせられた。
ここまでくると少々自分に否があったのではないか、と思い始める。
純粋が故に、京平先輩は自分のお弁当をいつも綺麗に残さず食べてくれる。
不味いなんて言葉を一度も聞いたことがない。
どんなに失敗しても、焦げていてもだ。

「仕方ないか……」

雨丸は小さく溜め息をつき、歩み寄る。
もちろん京平のところに。
行かなければならない。
その思いだけが雨丸を突き動かす。
謝って、仲直りして、明日もお弁当作ってあげよう。
ただそれだけだ。
それだけなのに怖い。

「きょ、京平先輩……」

京平の前に立った雨丸は、震える声で京平の名前を呼んだ。
髪がふわっと揺れて、悲しそうな目が向けられた。

「すみませんっ……さっきは少し言い過ぎました!」

深々と頭を下げた雨丸は京平からの言葉を待った。
だが、待ち兼ねた言葉は一向に返ってくる気配をみせない。
恐る恐る頭を上げると京平と目が合った。
唖然としていて、全く動く気配がない。

「京平先輩?」

はっと我に返った京平は、瞬きを何度かした。
小さく唇が動いていて、何かを言っている。

「……ごめん」

雨丸は聞き取った瞬間、目をこれまでにないほど見開いた。
なぜか嬉しい。
通じ合えたみたいで。

「明日もお弁当作ってきますね」

淡く笑って言うと、悲しそうな目が光を浴びてきらきらと輝いていた。

「……ありがと」

京平は小さく呟くと、雨丸を見上げていた。
その後、仲直りした二人は手を繋いで待機室に戻り、東に冷やかされた。

「あれ、雨丸?京平と喧嘩中じゃなかったっけ?」
「東、うるさい」

京平が一言だけ口にすると東は黙った。
そんな東が可笑しくて、雨丸は笑ってしまった。
京平は、そんな雨丸の笑顔を見て頬を緩ませていた。

「京平先輩、そろそろ班長来ますよ」
「あぁ……そうだった」

ちらりと机の上の時計に目をやり、繋いでいた手を離す。
なぜか少しの間だけなのに切なかった。
もうちょっとだけ繋いでいたかったな、と思った。
ドアが勢い良く開いて、班長が入ってきた。

「おう、飯食ったか?」
「はい」

律儀に返事を返した雨丸に悪戯っぽい笑みを浮かべ、王太は全員席に着くように促した。

「明日から全国一斉装甲暴走族取り締まり週間だ」

嗚呼、また二人の時間が削られていくんだ。
雨丸は寂しげに笑った。



*END



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