欲しいもの
散る。
散る。
花びらが散る。
それと同時に俺の恋も散った。
叶うわけないと思っていた。
あの二人は、たぶん相思相愛。
俺は、ただひたすらに片思い。
どうやったって、俺は恋は実らない。
- * - * -
海とくれば、必ずと言っていいほどカップルがいちゃついている。
まったく俺にとっては、嫌み以外の何ものでもない。
今日は海に行くのも嫌だったのだが、雨丸が来るって聞いたから来た。
でも、それと同時に雨丸の想い人も来るから嫌だった。
「班長ーーっ!こっちです」
木陰で、雨丸が手を振っている。
その隣には、京平が木にもたれ掛かってこちらを見ていた。
「(嗚呼、やっぱりあいつも来てる)」
どんなに俺が好きでも、雨丸は京平が好きで、京平もたぶん雨丸が好き。
ふたりは相思相愛で、俺の居場所なんてどこにもない。
「班長、遅刻ですよ」
「ごめん、ごめん……あれ?他の奴は?」
今日は、東や夏たちも一緒のはずなのに二人以外は誰もいない。
「急用で来れなくなったらしいです」
最悪だ。
こんなことなら、初めから来なければよかった。
雨丸がいるから行こうなんて愚かな考えを起こさなければよかった。
嗚呼、いつだって後悔してる。
俺の恋は一歩だって前進していない。
いつになったら前進するのかもわからないし、もしかしたら後退していくのかもしれない。
結局、俺は帰るとも言えずに気まずい雰囲気の中、いることになった。
「どうします?三人じゃつまらないですよね……」
雨丸が困った顔をしていて、それが凄く可愛かったとは本人には言えない。
少しして何か考えついたのか、雨丸は京平とどこかへ行ってしまった。
ここまで来て俺は一人なのかと泣きたくなった。
「班長」
聞き慣れた声が俺を呼んだ。
それが嬉しくて、精一杯の笑顔で振り向いた。
「どうかしたのか?」
「京平先輩帰ったんで、これから二人でどこか行きませんか?」
その言葉がどれだけ嬉しかったかなんて、わからない。
でも、雨丸が京平じゃなく俺を選んでくれたことが無性に嬉しかった。
雨丸が俺のことを好きじゃなくても、どんなに京平のことを好きでも。
今日だけは俺を見てくれるだろう?
いつから好きかは忘れた。
いや、わからないが正しいのかもしれない。
気づいた時には、もう好きだった。
終わりなんてない。
叶うこともない。
果てしない俺の片思い。
お前は気づいてないだろう?
俺がひたすらお前への想いを隠してるってことを。
「よし!じゃあ、買い物からだ!」
そう言って俺は雨丸の手を引っ張った。
手あったかいな。
不意にそう思った。
たぶん、それは気のせいだ。
俺にはあまりにもあったかすぎたから。
「班長……無理してません?」
隠し通す自信だってあった。
嘘だって上手い。
なのに、何でそんなこと聞くんだ。
「な、に言ってんだ……?そんなわけないっての」
「だって、班長の手……いつもより熱いですよ?」
嗚呼、あったかかったのは雨丸の手じゃなくて俺の手だったのか。
一瞬世界が傾いて、遠ざかっていった。
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえている。
- * - * -
次に目を覚ますとベッドの上。
見慣れない窓の向こうの景色。
ベッドの端にもたれ掛かって眠っている雨丸。
「ここまで運んだのか……?」
近くにいる雨丸。
そっと額に気づかれないように口付けを落とした。
ここまで運んでくれたことへの感謝と愛しさを込めた口付けを。
「早く振り向いてくれよ……」
お前は気づいてないだろう?
こんなに愛されていることに。
振り向いてくれるのを待っていることにも。
*END
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