隠れ簑
「咲羽……」
こんにちは。
桃太郎こと桃園祐喜です。
只今、猿こと高猿寺咲羽とロッカーの中にいます。
薄暗く、狭い中で密着状態。
なぜこんなことになったか、と申しますと遡ること半時間前のこと。
- * - * -
トラブル吸引体質の俺は、うっかり階段から転落した。
そして、階段の下の赤鬼こと暮内紅の上に落下してしまったのだ。
それまでなら、まだ良かった。
あろうことか落下した時に紅の唇と俺の唇が当たったのだ。
つまり、キスしちゃったってこと。
当然、紅のファンの女の子たちが黙っている筈もなく、俺は追われることに。
逃げている最中に咲羽と会って助けてもらったまでは良しとしよう。
今、俺の手は咲羽の胸のところにあって、咲羽が俺をしっかりと包み込んでいる状態。
なぜ、こんな体制になったんだ。
俺の手から咲羽の心臓の音が伝わってくる。
俺が少し動く度に咲羽の心臓は速くなる。
俺の心臓は、もうすでにバクバクだっていうのに。
「何か、ドキドキする」
嗚呼、俺は何言っちゃってんだろう。
馬鹿みたいだ。
ロッカーの外では、俺のことを血眼になって捜している女の子たちがいる。
時々、聴こえてくる声に俺はビクビクしながら咲羽の服を握り締めた。
そんな俺を咲羽は、ぎゅっと包み込んでくれた。
「さっきの忘れて」
「忘れれないかも」
このとき、咲羽が言って言葉の意味がわからなかった。
でも、すぐにその意味がわかった。
「祐喜、こっち向いて」
俺は言われるままに咲羽の方を見上げる。
薄暗いロッカーの中では、咲羽の表情までは読み取ることはできなかった。
「俺、お前のこと好きだわ」
咲羽の一言に俺は驚いた。
同時に嬉しくもあった。
そして、咲羽の唇が俺の唇に触れた。
咲羽の髪から少しだけ甘い香りがした。
「んっ……」
甘い声が漏れた。
俺の声ってこんなだったっけ?
突然開いたロッカーの扉。
ロッカーを開けると躰を密着させてキスしてる俺たち。
「あっ」
俺は横目で見ると、俺のことを血眼で捜している紅のファンの女の子だった。
「あの……ごめんなさい、お邪魔しました」
そう言って、ロッカーの扉を閉じた。
女の子はブツブツ呟きながらどこかに消えて行った。
長いキスから解放された俺は、ロッカーの中に永い間居すぎたのか。
そのまま咲羽の胸の中に倒れ込むように眠ってしまった。
その後、雅彦と雪代がロッカーの中から助け出してくれたことを咲羽から聞いた。
そしてこの日、
俺は咲羽と友達の一線を越えました。
*END
BACK/TOP
|