『世界はそっち側』
7
風呂から出て髪をタオルで拭きながら寝室に戻って本棚をちらりと見る。
リビングにも本棚はあったが、寝室の本棚には、どうやら魔法専門のものばかりらしく、七属性全ての本と無属性の本が数冊ずつ並んであって、その中でも火属性の本が多い事からオレの属性が火属性なんだろうな、と推測する。
A組という事は、媒体もなしに魔法を使える訳なのだが、魔法とはどう発動させるんだろうか……?
一冊取り出してページを捲り、綴られている文字を目でなぞる。
ふむふむと読んで試しに掌に意識を集中させ、魔法を発動させるイメージを頭の中で浮かべる。
身体の中で何かが流れる感覚がして、それが徐々に腕から掌にへと集まっていき、ほんのり赤い光が灯ったかと思えば次の瞬間ボンッと勢い良く火……と言うか炎が燃え盛った。
一瞬びっくりしたが、落ち着いて体内を巡る……恐らくは魔力と思われる流れを意識して炎を小さくしていく。
これが魔力コントロールというやつなのか?あとで青海に聞いてみるか。
炎を消してからベッドへと座れば、ぎしりとベッドが軋んだ。
時間も時間だしもう寝るか、そう思ってベッドに横になろうとしたとき、ベッド脇のサイドテーブルにあるカレンダーの印に視線がいった。
それは今月の中旬辺りの日付に丸が七つ付いていた―――ついでに言うと今月の丸の最終日は昨日だ。
一週間も書かれてあるのが気になるが、全く身に覚えがない。
そりゃあ、オレ自身は今日"こっちの世界"を知ったんだから、一週間何があったかなんて知る筈もないんだが。
疑問に思って前の月に戻ってみれば、先月の同じ頃に同じく丸が七つ。
一体なんの丸なのやら。謎だらけだが、今月はもう終わってしまった。
……そういえば、結城がここに来た時に"今日も休みやがって"って、言ってたな……。
つー事は、この丸は学校を休んだ日って事か?それならば結城のセリフとも辻褄が合うが、一週間も休むとか、そんな虚弱体質なのか?こっちのオレは……。
しかも良く見ると毎月必ず一週間休んでるみたいだしな。どんだけだよ……。
一先ず、丸の正体を休んだ日って仮定して眠りに就く事にした。
天地も判断出来ない程の真っ白な空間に、真っ白な服を身に着けてオレは立っていた。
静寂の中、これは夢だなと頭が冷静に判断し、歩き出そうとした瞬間、背後で一瞬だけ空気が揺れたのを肌で感じた。
振り向けば、オレと同じ真っ白な格好をした誰かが背を向けて立っている。
「お前……」
『悪かったな』
「……あ?」
「誰だ」と続ける筈が、目の前の人物によって遮られた。
たった一言、何に対してなのかわからない短い謝罪の言葉。
だけどそれだけで目の前の人物が誰なのかを悟った。
「"オレ"は何に対してオレに謝ってんだ?」
そう言えば、ずっと背中を向けていた相手が振り返る。
案の定、目の前の人物は"オレ"であってオレじゃない"オレ"―――つまり、魔法世界の縣 柊哉(アガタ シュウヤ)だった。
「ははっ……、初めましてか?」
『面と向かってはな』
「変な感じだな」
『そうだな』
なんて事のない会話を刻んでいく。
さて、この夢は一体どんな意味があるのやら。
「……で、なんでオレは謝られた訳?」
『オレの弱さに巻き込まれたから』
「どういう意味か、詳しく頼む」
そう言えば相手はこくりと頷いた。
伏せられた視線にどこか陰りがあって、儚く見える。
2016/12/10.
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