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『世界はそっち側』
13


不運にも出くわしてしまった以上、何かしらアクションを起こさないといけない訳で、オレは溜め息を零しつつ立ち上がる。
その際に触れた草木ががさりと音をたて、びくりと肩を揺らす若干涙目の彼等。
……何もしてないのに、オレがいじめているみたいで少し複雑な心境だ。
とりあえずオレはこのサバイバルゲームにおいては、各陣地の像を壊す事は出来ないが、各チームに配属された生徒達との攻防戦を繰り広げる事はルール上、可能になっている。
使用する魔法も過度なものでない限りは使用可、相手は複数人ではあるが、媒体を通して魔法を発動させるタイプ。
こう言ってはなんだが、魔法のやり取りに関してはオレの方が有利ではある。
それにどんな魔法でも条件さえ守ればなんでも可とは言っても、だからといって別に属性魔法を使う必要はない。
無属性魔法で拘束するなりなんなりする程度でも全然構わないのだ。
そう思って無属性魔法を発動させようと掌に魔力を集中させたが、ふとある事に気付き、集中させていた魔力を解除した。
その事に彼等も気付いたらしく、焦りながらも首を傾げている。


「……お前ら、一年生だろ?」

「……え?」

「そ、そうですけど……」


ふと気付いた事を声に出してみれば当たっていた様で、疑問に思いつつも頷く彼等は、今年入学したピッカピカの一年生。
この全校生徒参加型のレクリエーションは、新学期最初の行事ごとであって、つまり一年生にとっては高校に上がって初めての行事という訳だ。
この学園は中高一貫校らしいから、去年と今年でそんな違いは感じないかもしれないが、やはり中学と高校とではそれなりに、感覚的に違うものがあると思う。
それを踏まえてオレは一つ、提案を上げた。


「じゃあ、ここはお互い見なかったって事にしないか?」

「……は?」

「どういう、事ですか……?」

「お前ら一年生にとっては高校最初の行事だろ?なのに開始早々にオレなんかと遭ってつまんないだろ?他の各チームの奴らとの攻防こそ意味があるゲームなんだしさ。……いや、これ言ったら生徒会や風紀委員の立場がどうなのよって話だけど」


自分で言って自分達の立場がオマケで設定されたものの様な言い方になってしまい、なんだかなあという思いをぶつぶつと呟くオレを余所に、後輩達はぽかんとした表情で固まっている。


「あー……兎に角。折角の参加行事なんだ。二、三年にも勿論だが、一年にも有意義な時間を過ごして欲しい訳で、つまり今この時点でのオレには戦うつもりはないから、お互いなかった事にしましょうよって話なんだが……」

「えっと……それって……」

「……良いんですか?」

「いや、だってお互いこんな早くから出くわすなんて思ってもなかった訳だし。あ、でもなかった事にするのは今だけで、中盤とかにまた出くわしたらその時は戦うけど、それで良いか?」

「……あ、えっと……」


お互いを見て確認し合う後輩達の返答待ち。
オレとしては行事を少しでも長く楽しんで貰いたいという生徒会長としての気持ちも嘘ではないから、出来れば了承して貰いたいのだが、もし万が一に了承して貰えなかったら、その時はそれでも構わない。
彼らの勇敢な決断をオレは受け止めるだけだ。
暫くして漸く決まったのか、改めてオレに視線を向ける後輩達の真剣な眼差しに、まさかと一瞬眉を顰めた。


「あの、そのご提案……ボク達からもお願いしたいです」

「……よし、交渉成立だな。じゃあ、オレはこのまま先に進むから、お前らは少ししてから行動すると良い」


嘘ではなく、本当に戦う意思はないという意味も込めて背中を向ける事を提案した事に、後輩達はこくりと頷く。
それを見届けてからまた姿勢を低くして、オレはその場を立ち去った。
後ろからの魔力の気配や動きは感じられなかったから、彼らもオレを騙す気があるという訳ではない事に少し安心した。
だってこの世界でのオレの立場を考えると、それも有り得るだろうなと心の奥底で少し思案したからな。
暫く歩いた所でまた辺りの様子を注意深く確認する。
後輩達と別れてから結構な距離を移動したから彼らに次に会うのは暫く先になるだろう……彼らが各チームとの攻防戦や、他の役員達との一戦に勝ち残っていたらの話ではあるが。


「さて……これから何処に行こうかな」


少し離れた先で誰かが魔法を発動している気配を感じる。
微かに音も聞こえているが、そこに割って入る気は毛頭ない。
オレが転送魔法で転送された場所付近に配置されたチームは、早々に出会った後輩達の腕章で黄色チームだというのはわかった。
本当は一番近かったチームの傍に行こうと思って動き出した矢先の偶然の出くわしをくらい、そんな彼らと一戦を交えない約束をした以上、暫くは黄色チームには手を出すのは控えるつもりでいる。
残りの四チームはどの辺りに配置されているのかはリストバンドで大まかな位置はわかるから、それを頼りに前進あるのみ。


「えーっと、あっちの方で戦ってるのは位置的に赤チームと……」


リストバンドに魔力を込めて位置情報を確認しながら状況を把握している最中の事だった。
ざわりと撫でる様な感覚が背中を這い、直ぐに息を潜める。
リストバンドに送っていた魔力も切り、辺りの気配を確認する。
魔法を発動している訳ではない。魔力を垂れ流している訳でもない。
なのにこの身体を撫でる様な感覚はなんなのだろうか。


(近くにいる……でも、)


なんらかの気配は感じるのだが、姿はなく、音もしない。
傍にいる"誰か"も隠れて様子見しているのだろう。
少しだけ緊張で鼓動が速まる。


「―――……ッ?!」


辺りを警戒していた筈なのに、気が付いたらうしろから口を押えられ、もう片方の腕は腰に回されて拘束されてしまった。
警戒を怠った訳でもないのに、この一瞬でそれをやってのけたというのは、それ程まで気配を悟られずに近くにいたという事なのだろうか。
魔力の気配は感じなかったから、有り得なくはない話だ。
とりあえず拘束を解かない限り何も出来ない。幸い両腕は自由に動かせる。
口元を押さえている手と、腰に回されている腕を掴んでぐっと力を込めて剥がしにかかれば、以外にもその拘束はすんなりと外されたのだった。



2019/1/2.



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