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『世界はそっち側』
8


石山が退室してから更に時間が過ぎていた様で、気付けば既に二十二時を回っていた。
寮内にある食堂は二十一時に閉まってしまう為、当然ながら食いっぱぐれた事になる。


「……帰るか」


残って集中していたからか、一通り提出期限のある書類を中心に捌いて、合間にそうでない書類にも目を通したりした為、少しだけ余裕が出来そうだ。
まぁ、だからといって授業に出れるまでには至ってないが……。
捌いた書類を纏めて帰寮準備に取り掛かる。
窓の鍵のチェックをし、忘れ物がないかを確認して、渋々片付けて纏めた大きなゴミ袋を持って生徒会室を出る。
鍵をかけて、持ち出したゴミ袋を生徒会室の入り口の傍に置いたままその場を立ち去る。
本当は直接 焼却炉まで持って行きたい所なのだが、こうするのには理由がある。
この馬鹿でかい学園と広い寮の清掃をするのは、実はここに住まう妖精達が行っているとの事。
よくあるファンタジー小説に出てくるようなドラゴンや妖精、小人、聖獣などといった架空の生き物がこの世界にも存在し、ただあまり人前に姿を見せないらしく、偶然に出くわしたらラッキーなものらしい。
そんな彼等を召喚獣として呼び出す召喚魔法や、個人契約を交わすという行為は基本的にはないという。
これに関してはちょっと残念な気持ちになったが、調べてみると召喚魔法や契約はないが、ドラゴンや妖精などと友好と信頼を築き、協力姿勢の見せるものに関してのみ戦闘中の呼びかけにも応じてくれるらしい。
まぁ、これも出会わない限り話が進まないものだから残念なままなんだが、そこで契約制度のない筈なのに、何故この学園と寮の清掃を妖精達が行っているのかというと、これは契約上のものではなく、妖精達の厚意で成り立っているという。
先程述べた様に普段は人前に姿を現さない為、昼間は寮の各部屋、夜は学園の清掃をと上手い事分けているらしく、それでも遅くまで明かりの点いている生徒会室は後回しにしている様で、姿を見た事はまだ一度もない。正直、見たい……。
で、ゴミ袋を廊下に置きっぱなしにした理由は、妖精達の厚意で清掃を行ってくれているのは有り難い話ではあるのだが、いくら妖精達とはいえど生徒会室に入って大事な書類に触られてしまうと困る。
だから生徒会室を含めた一部の部屋の掃除はしなくていいというルールが設けられ、片付けて欲しいものに関しては廊下に置いておくという事になっているらしい。
それを知らずに最初の頃、自分でゴミを捨てに行った翌日、生徒会室の扉に『ゴミ カッテ二 ステルノ ダメ!!』と、三歳児が書いたような、辛うじて読めるミミズ文字の書かれた張り紙が貼られていた。あれにはびっくりした。
でも、いくら厚意で片付けてくれるといってもお礼はしたいと思うオレに、方法ならあると青海が教えてくれた。
その方法とは、廊下や教室、部屋の隅っこの方に食べ物を置いておくという事。
大きすぎない、量も多すぎないものならなんでも構わないらしい。
仕事熱心な彼等にお礼として食べ物をこっそり置いておくと、翌日にはそれがなくなっていた。
そんなやり取りを数日続けてきたから、オレはお礼用にと飴玉やクッキー等を常に鞄に仕込んである。
何時も通り廊下の隅や各階の廊下の所々に飴玉を数個ずつ置き、寮へと帰った。







寮へと戻ってくれば時間も時間な為、エントランス付近は静かなものだった。
真っ直ぐ自室に戻って、時計を見れば既に二十三時。


「腹、減ったなー……。でも何もねぇし、明日までの辛抱だな」


はぁ、と重い溜め息を吐きつつ、とりあえず風呂に入ろうと着替えを持って風呂場へと向かった。


2018/1/27.



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あきゅろす。
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