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『世界はそっち側』
7


理事長室から戻ってみれば、転校生とその他共の姿はなく、更にゴミで散らかった部屋しか残されていなかった。
入った瞬間、目の当たりにしたこの光景に腹立たしさから盛大な溜め息が零れる。


「だから片付けてから出てけっつーの!!」


もう耐え切れない為、仕方なく奴等が散らかしっぱなしにしたゴミを大きなゴミ袋に纏めて突っ込んで、飲みっぱなしのカップ達を生徒会室備え付けの給湯室の流しで洗い、ゴミの乗っていたテーブルを布巾で綺麗に拭く。
ゴミの取りこぼしがないかの確認を済ませ、綺麗になった生徒会室を見て、これで残りの仕事に集中出来ると自身の使う机へと向かえば、机の上に何かの食べこぼしや、生クリーム、果ては何かの液体を零しててきとうに拭った跡が広がっていた。


「……あんのクソガキ……!!」


生徒会長専用デスクにまで座りやがったな……ッ?!
他の役員共が、いくらオレが不在だったからってここに座る事は恐らくはないだろうし、あったとしてもこんな汚していく筈がない。
そうなると選択肢は二つ……、転校生か不良の容姿をした後輩のどちらかだ。
不良の方の性格は全くわからんが、他の皆がわいわいと賑やかに菓子類を食べていた時、一人だけ何も口にせず、輪に溶け込んですらいなかった。
だから、なんでこいつはここにいるんだろうかと疑問に思ったものだ。
そんな奴がここに座って食べ物を零していくか?―――否。それはないだろう。
そうなると、おのずと答えは一つしかない。転校生だ。
奴ならば勝手に座るだろうし、座った所で誰も止めないだろうし、菓子を貪ってぽろぽろと零してたとしても誰も咎めないだろう。
生徒会室だろうと何処だろうと、マジで好き勝手し放題だな畜生。
幸い書類には油染み等の被害がないのが救いではあったが、明らかに触った形跡はある。
纏めて重ねておいた筈の書類の一部がばらばらに散乱しているし、中には勝手にサインを書かれているものまであった。
また、近くに置いてあるゴミ箱には、捨てた覚えのない丸められた紙が幾つかあって、それを拾い上げてぐしゃぐしゃの紙を広げてみれば、全部 転校生が起こした問題の被害報告の書かれた書類ばかり。
流石に勝手過ぎるだろう……怒りで書類をぐしゃりと握り潰してしまった。
今すぐにでも転校生に説教をしたい所だが、探しに行くにしても今何処をほっつき歩いているのかもわからないし、何より今は会いたくない。
会ったらきっと、いや絶対に一発殴る自信がある。
行き場のない腹の中のもやもやを落ち着かせる為に、溜め息と一緒に出て行って欲しいと願いつつ息を吐けば、思いの外重たいものが出た。
イライラしてたってどうしようもないんだから、転校生がいろいろとやらかしたものを片付けようと、またゴミ袋と布巾を片手に掃除からスタートさせた。







机を綺麗にして、勝手に書かれたサイン―――ご丁寧にボールペンでオレの名前を平仮名で書いてあった―――を修正液で消して書き直し、改めてぐしゃぐしゃにしてしまった被害報告書類を粗方綺麗に広げて、少しでも良くなればいいなと無駄な足掻きと知りつつも、重しを乗せて伸ばしてみたりという事と、他の書類を捌いていたら何時の間にか放課後も帰寮時間も当に過ぎていて、外は真っ暗になっていた。
あれからずっと集中して仕事が出来たのは、きっと邪魔が入らなかったからだろう。
しかし、書類の量はそれなりに片付いて減っていくとしても、まだ捌ききれていない書類の山の方が断然多い。
他の役員共が転校生にかまけてなければ、二〜三日もあれば片付くというのに……惜しい人材を失ったものだ。


「はぁー……」


嘆いた所でどうにかなる訳でもないし、そんな暇があるなら手を動かそうと新しい書類に手をかけた時、コンコンとドアがノックされた。


「?……どうぞ」


こんな時間に一体誰だ?まさか帰寮時間も過ぎてるっていうのに転校生+αがまだ帰ってなかったとかか?
だとしたら迂闊に返事をしてしまった事に少し後悔したが、ドアを開けたのは予想していた人物達ではなかった。


「失礼しまーす。書類のお届けに来ましたぁー」


入って来たのは風紀副委員長の石山だった。
その事に少しほっとしたのだが、石山は生徒会室の中を一度きょろりと見渡してから近くにあるテーブルの上に書類を置いた。
あくまでもオレの所まで持ってくる気はないんですか、そうですか。


「……わざわざ悪いな、ありがとう」


とりあえず石山が退室したあとにでも取りに行くかと決め、座ったままお礼を言えば、少し怪訝そうな表情を見せる石山。
礼を口にしただけでなんつー顔してくれてんだと少しムッとなったが、用件の済んだ筈の石山がなかなか出て行かない事に不思議に思い「どうした?」と声をかける。


「いーえー、なんでも」

「あ、そう」

「…………まだ、」

「あ?」


用がないならさっさと帰ればいいのに、と呆れていれば、少し言いづらそうにもごもごと口を動かす石山。
上手く聞き取れなくて少し素っ気なく聞き返してみれば、石山がじっとオレを見ていた事に気付く。


「……まだ、帰らないんですかぁ?」

「は?……あぁ、まだ残ってるつもりだけど。それが?」

「べっつにぃー?」


突然なんだと思い、質問の意味を聞こうとしたが、石山は特に意味が無かった様で答える事もなく「失礼しましたぁー」と退室してしまった。
一体なんだったんだろうか。オレの中には疑問しか残らず、首を捻るだけだった。


2017/12/30.



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あきゅろす。
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