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『世界はそっち側』
4


手元の書類を見て提出する順序を頭の中で確認する。
といっても単純で、職員室から理事長室への順なのだが。
生徒会室を出るまでの出来事により無駄に疲労感を感じる今、どこも行くのが面倒というか、気が乗らないというかなんというか……。
そんな事を言ったって代わりに行ってくれる様な奴はいないし、オレが行くしかないのだからと渋々と足を動かす。
職員室までの道のりを歩いている途中、ふと窓の外―――ここからでも見える中庭に数人の生徒達がいた。
中庭は誰でも利用可能だから人がいたっておかしくはないのだが、さっきも言った通り今現在は授業中という事で、本来ならば中庭に生徒がいるのはおかしい。
それに遠目ではあったが一人の生徒に対して数人がかりでとり囲んで何やら揉めている様子だった。
全く、転校生の事でも面倒で仕方がないというのに、この学園ではいじめも存在するのか。
敷地も建物も広い学園に、そこに通う生徒数を考えると、風紀委員会がいくら注意して見ていたとしても、目の届かない所でいじめや嫌がらせが起きていても、きっと気付かない事も多いだろうな。
しかも授業中となると尚更。
オレも目撃してしまい、いじめの可能性を危惧してしまった以上、例えただのサボりで友人同士での戯れだったとしても、声をかけない訳にはいかないな。
一旦職員室へ向かう足を中庭の方へと歩みを変え、数人の生徒達に近付く。
相手はまだオレに気付いていない様で、声をかけようとしたその時、とり囲んでいた内の一人の生徒が杖を取り出し、その杖を振りかざした瞬間、いじめを受けていると思われる生徒の周りに一瞬にして複数の鋭く尖った氷柱が現れた。
それは水属性の魔法の応用で、形も大きさも発動者の思いのまま出す事が出来、今現れた氷柱は5p程度の大きさとはいえ至近距離で放たれるとなると、それなりの怪我は避けられない。
無属性の魔法にも捕縛系の魔法や特殊系の魔法もあるというのに、流石に七属性の魔法を使ってのいじめはやり過ぎだと思う。
……いや、だからといって無属性魔法でやれよって意味ではないぞ?
放たれる前に氷柱をどうにかしなくては……オレの属性は火だから水属性とは相性は悪いが、杖という媒体を使用しているという事は少なくとも普通科クラスかD組の生徒。
攻撃する訳でも威嚇する訳でもない、ただ氷柱さえどうにか出来れば良い訳だし、問題はないだろうと掌へと魔力を集中させ、指をパチンと一つ鳴らす。
その瞬間、氷柱に炎が纏わり勢い良く氷柱が溶けていった。


「うわぁっ?!」

「えっ?!一体何が……」

「お前達ここで何してんだ?」

「だ、誰だ?!」


突然溶けだした氷柱に、魔法の発動者ととり囲んでいた生徒、そして氷柱を向けられていた生徒の全員が驚きで一瞬慌て出す。
そこにオレが声をかけた事で、より慌て出す生徒達の顔を一人一人見るが、同じ学年にいる顔触れでない事に気付く。
生徒全員の顔と名前をきっちり把握している自信はないが、恐らくは一年生だろう。
オレの登場に後輩達は驚きつつも、相手が『忌子』だと知った途端、ほんの少し余裕を見せ始めた。


「な、なんだ……『忌子』の先輩じゃないですか。何か用ですか?」

「オレ達、今忙しいんですけど」

「特にこれといって用はねぇけど、授業中だろう?どうどうとサボってる上にいじめとは感心しないな」


少し腰の引けた姿勢で威嚇する後輩に、オレは呆れて溜め息交じりに質問を投げかけた。


2017/10/25.



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