[携帯モード] [URL送信]

『世界はそっち側』
2


更に厄介な事に、あの三人が全く生徒会室に来ない、という訳ではなく、一般生徒の立ち入り禁止の生徒会室に転校生を連れて仕事はせずに騒がしいティータイムをおくっているのだ。
転校生が望めばお菓子やら飲み物やらなんやらを自分だけに気を向かせたいが為に、まるで女に貢ぐかの様にせっせと用意しては、ぎすぎすとした空気を醸し出している。
そんな三人に気付いてんのか気付いていないのか、どうでも良いのか知らんが、転校生はそんな彼等に笑顔で対応している。
誰とでも仲良くなれる性格の持ち主なのだろう、と唯一の美点……美点?を挙げてはみるものの、転校生の普段の様子から窺える残念な性格と態度、馬鹿みたいに大きい声と動き、そして何よりその見た目からして、何故三人が転校生に好意を寄せているのか全くわからないでいた。
聞こえてるっつーのに大声で叫ぶ様にして喋るし、手をぶんぶん振ったり、物を掴むにしても力いっぱい握り込み、結果として物を壊す。
三人の親衛隊―――この二週間程の内に親衛隊という集団組織が存在する事と、主な活動内容(?)を青海に聞き済みだ―――が絡んで揉め事は起きるわで、オレも頭が痛いが、その都度駆り出されている風紀委員の方が迷惑している事だろう。
親衛隊の隊員が転校生に絡む理由として二つ挙げられているのだが、曰く『転校してきたばかりのうえに一般生徒の分際で生徒会役員の方々に近付いて何様のつもり?!』と『その汚らしい姿で生徒会役員の皆様を触らないで、隣も歩かないでよ!!』だそうだ―――因みにこれらは各親衛隊の隊員が言っていたのを風の噂……というか、風紀から青海を通して聞いた。
確かに、そんなちょっと面倒くさそうな組織が出来上がっているこの学園で、来たばかりの人間が目立つ人間と一緒にいると、そりゃあ嫌な思いをするかもな。
親衛隊の隊員達は、役員の奴等に長い事好意を寄せてきた連中で出来上がっているみたいだし。
更に彼等が許せないのが転校生のその見た目。
転校生の案内をした幡野が当時"少し変わった見た目をしている"とは言っていたが、実際に初めて転校生を見かけた時は、オレも思った。
というか、少しどころか結構変わった見た目で―――人の容姿をとやかく言いたくはないんだけど―――ぼっさぼさの藍色の髪に、見えてんのかって不思議な程のビン底眼鏡をかけている。
因みにそのぼさぼさ頭は自前で、ビン底眼鏡も実際に視力が悪いからというのを、生徒会室で騒がしいティータイムをおくっている時に勝手に喋り出した事で耳に入ったどうでもいい情報。
更にその転校生の噂は、役員と一緒にいるというものだけでなく、この世界では珍しく光魔法の属性を持つ人物らしく、七属性の中で特殊な光魔法を使えるというのは確かに珍しく、貴重な存在といえるだろう。
だから役員の皆様はお傍にいらっしゃるのかしら、とも親衛隊の誰かが嘆いていたのをすれ違い様に耳にした。
そしてもう一つ、光魔法の属性を持つ転校生は何故だか理由はわからないけれど、誰でも扱えるという無属性魔法をどうしてだか苦手としているらしい。
まぁ、こんなの別にオレにとってどうだっていい事だからこの話はお終い。
さて仕事に戻るか、と改めて机に向き直ると同時に、生徒会室の扉がバターン!!、と思いっきり開かれた。
そんな荒い開け方するのは一人しか思い浮かばず、重い溜め息が零れてもオレは悪くないと思う。


「たっだいまー!!柊哉ー、帰ったぞー!!」

「……」


ここはお前の家でもオレの家でもねぇよむしろ帰ってくんなつーか何故戻って来た。
言いたい事を喉に留まらせて無視を決め込む。
騒がしい奴のうしろからぞろぞろと役員三人と、見慣れない生徒一人が生徒会室のドアを潜った―――因みに見慣れない生徒以外の奴等は、少し前までここで何時ものティータイムを楽しんだあと、ぞろぞろと出て行ったのだ。
そのあとオレはうたた寝したって流れなのだが、マジでこいつ等なんで戻って来たんだ?
一応、こうであれという望みは、テーブルの上を占めるティータイム時の残骸なのだが、こいつ等が片付けた記憶は一度たりともない。


「なんです?散らかしたままで……片付けておいてくれててもいいんじゃないですか?」

「……はぁ?オレは関係ねぇだろうが」

「全く……気も回らない、役にも立たないなんて、これだから『忌子』は……」


はぁ、と溜め息を零す幡野に「お前は何かある度に『忌子』という単語を使いたがるな」と心の中で突っ込んだ。
つーか、オレは本当にそっちのテーブルの惨状には関係ないのに、何故オレが片付けなきゃならんのだ。
お前らが責任持って片付けろよ、と常々思うのだが、絶対に片付けない事を知っているから、それにムカつきつつ、オレも汚い状態で仕事したくないし、視界にちらちら入ってきてどうしようもないから、仕方なくオレが渋々片付ける、という結果に最後はなる。
この二週間程でストレス溜め込み過ぎて腹の中が重いぜ、畜生。


「コラ孝信!!そんな言い方、駄目なんだぞ!!『忌子』は『忌子』なりに頑張って生きてるんだからな!!」

「流石は健太……『忌子』なんかにも優しい心をお持ちですね。私が悪かったです」

「よし!!偉いぞ、孝信!!良かったな、柊哉!!」


まるで悪い事をした我が子を叱る母親の様な、或いは悪い事をした生徒を叱る教師の様に―――どっちも似た様なもんか―――幡野を叱るそいつに、幡野は慈しむ様な表情を向けていた。
謝罪の言葉をオレにではなくそいつに向けた事に対してなんとも思っていないのか、満足した様ににかっとオレに笑いかけながら親指を突き立ててみせる。
「ケンタ可愛いーっす!!」とそいつに抱き付く池内と、親指立ててるそいつの頭を撫でる上坂に幡野が「気安く触らないで頂けますか?!」と二人に威嚇し始めた。
因みにこの騒がしい、幡野と池内が"健太"と呼んだこいつこそ2年B組に転校生としてきた、高城 健太(タカシロ ケンタ)である。
というか、転校生よ……『忌子』に関して特に庇ってない言い様と、年上に対するその態度、お前は一体何様なんだって言ってもいいだろうか。


2017/8/29.



[*前へ][次へ#]

2/28ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!