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『世界はそっち側』
1


"向こう側の世界"から"こちら側の平行世界"に魂だけが入れ替わり、やって来てから二週間程が経とうとする。
初めてこちら側の授業を受けた時は、周りに変に気付かれぬ様に努めつつ、内心はテンションが上がりっぱなしだった。
何せ普通じゃ体験出来ない魔法を扱う授業が多いからな。
魔法を扱う授業以外にも魔法に関する事柄を学んだり、"向こう側の世界"と変わらずこの世界の過去の出来事や今の事、他国の事等を学ぶ世界史の様な授業とか、魔法に必要な言語や古代語等を学んだりと、板書されたものをノートに書きとめていくといった、わりと変わらない授業風景にも、どんな世界であろうとも同じなんだな、と思った。
魔法を使う授業では、怪しまれないように細心の注意を持って行った為、ばれる事はなかったが、オレが魔法をちょっと使っただけで周りがざわついて、ひそひそ話を始めたのにはどうしようかと思った。
どうしてひそひそ話が始まったかと言うと、普段のオレは生徒会長でありながらこの別世界での立場もあって、授業中とかもあまり目立たない様にしていたらしく、魔法の授業でも発動させないで受けていたと、ひそひそ話から情報を得た。
それで良いのかとも思ったが、"こちら側の平行世界"ではオレの立場は生きにくいものだったから、それはそれで仕方がなかったのだろう。
と、いう事は無駄に緊張する必要もなかったんだな、と少し気が抜けたのだった。
そんな日々を一週間……いや、五日程か?送ってきたが、それから三日程。
"とある事情"によりちょこちょこ授業を受けない日を過ごし、そして以降、今日までの間、オレは授業に一切出なくなった。
別に魔法に飽きたとか、苦戦して自棄になってとか、実はどうどうとサボってますって訳じゃない。
その"とある事情"により、オレは授業に出られなくなったのだ。
いや、"出られなくなった"というのは適切な言い回しではないな。
どちらかといえば、"授業を受ける時間が惜しく、泣く泣く出ない"と言うのが正しいだろう。
と、いうのも全てはその"とある事情"というものが原因である訳で―――……。


「っ、……んぁ?」


ばさばさっと何かが暴れる音にふと目が覚めて辺りを見渡す。
覚醒しきれていない脳で暴れている物の正体を探せば、どうやら風に煽られたカーテンだった。
ぼうっとしながら口元を拭い―――幸い涎は垂れてなかった―――少しだけ窓を閉めればカーテンの揺れが落ち着いていった。
くぁ、と欠伸を一つして固まった身体を解す為に伸びを一回。
日の光に当たっても問題ないとわかったが、どうやらそれでもオレは人よりも日に焼けやすい肌質をしているらしく、カーテンと日焼け止め、そして長袖という組み合わせは手放せない事がわかった。
ふぅ、と息を一つ吐いて椅子に座り直す。
何故オレが昼間からうたた寝をしていたかというと、いや、望んでうたた寝していた訳ではないのだが、つい睡魔に負けて眠ってしまったのだ。
その理由は、オレ以外に誰もいないこの静けさに包まれた生徒会室にある。
と、いうかオレはここ最近、朝から晩までずっと生徒会室に籠っている。
何故かって?それはとてつもなく簡単な理由だ。


―――この二週間程、オレ以外の生徒会役員達が仕事をしなくなったからだ。


何を馬鹿な事を言っているんだと思うか?残念な事に事実だ。
事の始まりは二週間程前にこの学園に転校生が来た事。
オレは"こちら側の別世界"の立場と、生徒会長という立場上、転校生とそう関わる事もないだろうと思っていたが、他の役員達はそうじゃなかった。
案内に向かった幡野が転校生を気に入っていた事にも珍しいとは思ってはいたが、その気に入り方が普通じゃない様で、どうやら幡野は転校生に一目惚れしたとかなんとか。
更には池内と、池内に引っ張られて連れてかれた上坂も入寮初日の夜に転校生に会いに行き、何があったかは知らんが二人も転校生を気に入り、その気に入り方が幡野となんら変わらずで、三人でばちばちと火花を飛ばしている状況らしい。
おいおい嘘だろ大丈夫かお前ら、とその話を風の噂で聞いたオレは盛大に呆れつつ、でも人が何をきっかけに誰かを好きになるのは自由だからと、三人で取り合うの面倒そうだが「まぁ、ガンバレ」という気持ちで見守っていた。
この時は、まさか三人が転校生につきっきりで生徒会の仕事をサボるなんて思いもしなかったし、そのつけが全部オレに回ってくるなんて、思ってもみなかった。
つまり、何が言いたいのかというと、あの三人が仕事しないで遊び呆けてるから溜まっていく一方の書類を一人でこなしている、という事だ。
それを二週間程続いているのだが、この学園の生徒会の仕事は半端じゃない忙しさで、それを役員に分担させて行ってまかなっていた事を、一人で背負う形になったのだ。
疲れも溜まってうたた寝してしまっても仕方がない、とオレは思う。


2017/8/12.



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