[携帯モード] [URL送信]

『世界はそっち側』
18


一通り書類を片付けていれば、生徒会室のドアが開かれた。
その音に、集中していたオレ達は一斉にドアの方へと視線を向ける。
入って来たのは、幡野だった。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさいっす!!」

「……お疲れさま……です」

「ご苦労さん」


一人一人順番に幡野に声をかけて行き、二人には一言返事を返していたが、オレの時には目線すら寄越さず無視。
……うん、わかってた。
幡野はそのまま給湯室に入って鼻歌混じりに紅茶の準備を始めた。
つーか、生徒会室の中に給湯室があるとか、すげぇよな。普通そんな設備いらねぇだろ。
更に驚いた事に隣の部屋は生徒会専用の仮眠室になっているらしい。
完全なビップ扱いに若干引いた。オレの通ってた学校では給湯室は勿論、仮眠室なんてものは存在しない普通の学校だった。
だから違和感を感じてしまうのだろうけど、今日生徒会室に来てから池内も上坂も何も言わないのだからここでのこの設備は至極当たり前のものなのだろう。


「幡野せんぱーい、オレも飲みたいっす!!」

「全く……。たまにはご自分で淹れたらどうなんです?……上坂はコーヒーで宜しかったですか?」

「……どうも……」


池内と上坂の注文を取ってそれの準備を進める幡野に「オレの分はないんかい」と心の中で呟いた。
まぁ、こんなぎすぎすした関係性の状態でオレの分まで淹れてくれるような事はないか。
あったらあったで何か裏がありそうだし、それはそれで怖いしな。
ふと時計を見れば正午を少し過ぎた頃で、転校生の到着予定が十時頃と青海は言っていたが、案内をするのに二時間もかかるものなのかとそんな疑問も浮かんだが、今は別の疑問……というか違和感の方が強く、案内時間の方は頭の片隅に追いやって給湯室から出て来た幡野を視線で追った。
何故ならば、生徒会室に入って来た時から幡野の機嫌がやたらと良いからだ。
飲み物を用意している間も鼻歌を歌いながらだったし。
不思議に思い、二人に飲み物を渡し自分の席に着いて紅茶を一口飲んだ幡野に聞いてみた。


「お前、随分とご機嫌だけど、なんか良い事でもあったのか?」

「……はぁ?」


気分良く紅茶の味を楽しんでいた幡野は、オレに話しかけられて気分を害したのか、眉を寄せ睨みを効かせた視線を向けてくる。
もうとりあえずこいつはいういう奴なんだ、と早急に受け入れたオレは、幡野の視線を気にせず幡野の返ってくるかわからない返事を待った。


「……何故わかったんです?」

「ん?いや、なんつーか……雰囲気?あと鼻歌」

「人の事じろじろ見るのやめてください不愉快です」


早口で突っぱねる幡野に「いや無理言うな……」としか答えられない。
広めとはいえ、同じ一室にいるんだから嫌でも視界には入るし、耳にも届くし。
不機嫌そのままに紅茶を啜る幡野に、結局会話のキャッチボールは不発に終わってしまった。
溜め息を零せば、池内が空気を読んだのか、それともただの興味からなのか―――後者だろうな―――幡野に転校生の事を尋ねた。


「ね、ね、先輩!!転校生どんな子っすか?」

「あぁ、彼ですか」


幡野の表情がころっと変わったのを見て、まさかご機嫌の理由が転校生なのかと悟る。


2017/6/24.



[*前へ][次へ#]

18/19ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!