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『世界はそっち側』
17


「悪いな、部屋まで送ってもらっちまって」


あのあと、念の為にと青海に部屋まで送ってもらい、無事に辿り着いた。
朝食の時間という事もあってなのか、廊下には殆んど人の姿はなく、食堂の様に騒がれる事もなくスムーズに行けたのは幸いだった。
「最後の方はボクが悪かったですしね」と苦笑交じりに答える青海にオレも笑って返す。


「頭では大丈夫ってわかってても、やっぱ長年の癖がなー。つい咄嗟に身体が動いちまったぜ」

「君はここに来てまだ二日目ですから仕方のない事です。徐々に慣れますよ」

「身体に染み込ませる為に今日はカーテン開けて過ごす予定だ」

「無理は禁物ですよ?」


冗談ぽく言って見せれば、くすくすと青海は笑う。
「ではボクはこれで」と踵を返す青海に、改めて一言お礼を言えば、手を振って返してくれた。
暫く見送ってから部屋の中に入り、早速日光を遮断させているカーテンを勢い良く開けてみた。
全身にかかるほのかな温もりと、目を細めなきゃいけない程の眩しさの前に暫く立ち尽くしていれば、肌に伝わるものは声を上げる事も出来なくなる程の激痛、とかではなく、とても暖かな、更には瞼が重くなってしまう様なものだった。


「飯食ったあとだから余計か。……はぁ、これが日の下にいる感覚か……悪くないな」


太陽光を全身に浴びて、猫が良く気持ち良さそうに昼寝をしている姿に至極納得がいった。
向こうのオレの身体じゃ、熱気は感じても直に日の光を浴びる事は出来なかったからな。
温まった空気だけでも眠気は誘われるが、それが日の光も追加されるとなると、睡魔に抗う事無く身を委ねてしまいそうだ。
くあぁ、と欠伸一つ吐いて身を委ねてしまいそうになった己を起こす為に頭を振って眠気を払う。
明日の転校生の案内もなくなってしまったし、今日は元々部屋で月曜からの備えにいろいろと勉強しようとしていたのだから、さっさと取り掛かろう。
そう気を引き締めてまずは教科書やノートを見る事から始めた。









―――日曜の朝。

昨日は集中して勉強していた為、時間があっという間に過ぎて一日を終えた。
転校生がやって来るという今日は、予定通り幡野が転校生の出迎えと案内につき、オレは休んでた一週間分の仕事をこなそうと生徒会室に来ていた。
学園内は青海に事前に貰っていた冊子に案内図が載っていたから場所に困る事はなかった。
生徒会室に入れば、幡野以外の生徒会役員メンバーが揃っていた。


「うっわ……カイチョ―、来たんすか?今日も休むかと思ったっす」

「あ?なんでだよ」

「べっつにー?」


入って早々に池内が「ゲェ〜ッ」と嫌そうな顔つきで話しかけてきたものだから軽く頭を小突く。


「ぎゃっ?!うーわぁ、サイッテー!!気安く触んなし!!」

「朝っぱらからうるせーぞ、池内。上坂を見ろ、オレが来ても騒ぎ立ててこないぞ?」

「キヨシは元々こんなんっしょ。……つーか、話しかけてこないで欲しいんすけどー」

「お前から話しかけてきたんだろーが。なぁ、上坂?」

「……振るな……」


上坂にも声をかけてみれば、ちらりと視線を一回寄越されたが、直ぐに背けられてしまい、会話に参加する気はないと突っぱねられた。
それを機に池内も「カイチョ―と長く喋っちゃった死ぬー」などと悪態をつきながら書類に視線を向ける。
仕事をちゃんとする姿勢は大変良い事だが、その悪態に関してはなんとまぁ、腹立たしい。
だからと言って突っかかる気力もないし、オレの方が一個上なんだしと溜め息を一つ吐く事でいろいろなもやもやを解消させ、オレは生徒会長専用の机へと足を運んだ。
昨日一日カーテンを開けて日に当たって過ごした為、身体への大きな変化や影響はないと実感してはいるが、無意識に身体に力が籠ってしまったらしく、一瞬座るのを躊躇った。
それでも一瞬の事だったから二人が気付く事はなかったが、気が抜けないので一応念の為にカーテンを閉めた。
暗くなり過ぎず、余分な光を丁度良く遮断してくれるレースカーテンが、窓から流れる風に煽られて揺れる。
それを見てオレも気を取り直して机に向かい、書類に手を伸ばした。


2017/6/14.



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あきゅろす。
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