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『世界はそっち側』
16


現れた若竹色という珍しいチョイスの髪に、黒い瞳と口元に緩く弧を描かせながら幡野の隣に立ったのは、池内 典彦(イケウチ ノリヒコ)、生徒会会計の二年生だ。
見た目が少し不良の様でいて、へらへらチャラチャラした性格の持ち主で、その珍しいチョイスの髪色は、ある意味こいつだから似合うのかと不思議と思えてくる。
そして、転校生というワードが気になってこいつも来たんだろう、幡野と池内の後ろで上坂 清史(カミサカ キヨシ)が佇んでいた。
上坂も二年生で生徒会書記を務めている。寡黙なタイプであまり表情筋に変化が見られず、体格もそこそこ良く、180cmから見下ろされる背の低い生徒達の一部からは怯えられている所を何度か目撃した事がある。
因みに上坂はその都度隠れて凹んでいる所も見た事があったり。
生徒会の仕事をする上でのやり取りで先輩後輩の関係性はわりと良好に築けてきていたからこそ、こっちのこいつらも冷たいんだろうな、と思うと少し寂しさを感じる。


「転校生君にカイチョ―は駄目っしょ。つーかオレが転校生の案内するっすわ!!どんな奴が来るのか一番に見たいっす!!」

「イメージダウンで言えば貴方もアウトなんですよ、池内」

「えぇー?!『忌子』よか良くねっすかー?」

「たとえ『忌子』より良くても貴方のそのてきとうさ加減が駄目なんです。よって明日は私が迎えに行きます」


「副カイチョ―が行きたいだけなんじゃないっすかー?!」と文句を垂れる池内に「学園の為です」と意思を曲げない幡野。
上坂に関しては、本人も転校生が気にはなるんだろうけど、案内役に候補する気はないようだ。
つーか、オレはどうしたら良いんだって話なんだけど。
一応、オレは引き受けた立場にあるし、結城にも仕事に関していろいろ言われてしまった訳だし、ここで案内役を下りるとなるとオレの立場がだな……。


「別に誰が行ったって構わないだろ」

「……え?」


幡野と池内のやり取りに溜め息交じりに口を挟んだのは、意外な事に結城だった。
どういう事だとオレは結城に視線を送るが、こっちを見る事もなく幡野と池内に視線を向ける。


「もともと誰が転校生の案内役をするのかを決めて書類提出しなきゃならないのを、こいつの所でつまってたから急ぎで決めたにすぎない。案内役が変わろうが、問題はないだろ」

「そうですか。全く……貴方は本当に他人に迷惑しかかけられないのですね」


確かに結城の言う通り転校生に関する書類がオレの所で止まってて風紀委員会には迷惑かけたかもしれないが、全面的にオレが悪いという言い方に少しカチンとくる。


「あぁ、そう。そこまで言うなら幡野、代わりに明日よろしく」

「貴方に頼まれなくても」

「あっそ」


カチンときたから素っ気ない言い方になってしまったのは、仕方ない。
でも喧嘩腰になったのは不味かっただろうか……オレは別にこいつ等と喧嘩がしたい訳じゃないし。
言った直後に内心反省していれば、前に座る青海には気付かれたらしく、苦笑混じりの呆れた顔をされてしまった。
そんなオレ達のやり取りに気付きもしない―――というか興味の欠片もないんだろう―――幡野と池内の転校生案内役の取り合いはまだ続いていた。
幡野に譲ったからにはもうオレの役割じゃなくなった訳だから、どっちが案内しようがどうでもいい話だ。
そうなると明日時間が空いてしまうな。元々、転校生を案内し終わったら生徒会室に行く予定ではあったが、それを繰り上げる事になるのか。
恐らくは他の役員の誰かしらはいるだろうし、いざとなれば青海に鍵を開けて貰えばいいから問題はないだろう。
つーか、オレ生徒会室の鍵持ってんのか?鍵らしい鍵はこの生徒手帳の役割も含めた部屋鍵位しか見かけなかったけど。
あとで青海に聞くとしよう。
そんな事を考えていれば、周りの騒がしさが少しばかり上がっていたらしく、石山が「どっちでも良いですけどうるさいですよ?!」と怒声を上げていて、青海もそんな彼等を止めるべく間に割って入っていた。
そんな向こうの世界じゃ滅多にお目にかかれない珍しい光景につい笑ってしまい、一斉に視線を集めてしまった。


「あー、悪い。気にすん……っ!!」


じろりと青海以外から睨まれ、笑いを堪えながら謝罪の言葉を述べようとした時、ふと手の甲に視線が向いた。
朝食も済んでほんの少しとはいえ食堂に居座って時間を潰していたから当然の事ではあるが、日が昇り食堂内に更に明るさが増し、そして暖かな温もりが食堂内を包み込む。
つまり、日の光がオレの手の甲に差し掛かっていた訳だ。
いくらこの世界のオレの身体が向こうのオレのものとは別物と知っていても、長年の身についた癖はなかなかに直るものではないだろうし、ましてやうっかりその事を忘れてしまう程、今のオレは気が抜けていた。
だから咄嗟に焦って手の甲を庇いながら立ち上がったオレを、役員の皆が怪訝な顔で見てくるのは仕方がない。


「……えーと、いや、うん。なんでもない。気にすんな」

「会長……変……」

「いや悪い、本当なんでもねぇ。大丈夫だ全然」

「別に貴方の心配など、ここにいる全員してませんよ」

「おぉ、それもそうか。まぁ、でも一応な?」


うおぉぉ……自分でも驚く程、マジで焦った。
何時もなら日があまり当たらない席とか、教室でも皆事情を知ってくれているから席は廊下側にしてくれたり、離れててもカーテンを閉めてくれてたりと、何かと周りにも協力してもらって高校生活を送ってきたから、その油断もあったな。
そんな状況とは無縁のこっちの世界で、誰も気にせず日の当たるテーブルに着いて、日差しが入る様にカーテンも開けっぱ。
オレの今の身体もそれらに対応可能。大丈夫。実際、日に当たってた手の甲は、なんの変化も痛みもない。
これに関しては慣れるまでは挙動不審な行動をとりそうだな、と今後の事を危惧していれば、青海が傍に寄って来た。


「大丈夫ですか?顔色が少し悪いですよ」

「あ?……あぁ、大丈夫だ。ちょっといきなりすぎてびっくりしただけだし」

「そうですか……。では、話も済んだ事ですし、部屋に戻ってゆっくり休んだ方が良いですね」

「え?あ、ちょっ……」


そう言って青海は、オレの分と自分の分のトレーを纏めて持ち、もう片手でオレの手を掴み、そのまま歩き出す。
驚いて一瞬足を止めようとしたが、青海は歩みを緩める事なく進んで行くから自然とそれに従う事に。
唯一オレの事情を知る青海だからこそ心配してくれてる事がわかるけど、手を掴む必要性はあるのだろうか。
ちらりと後ろを見れば、やはりと言うべきか、その場にいる役員全員が目を見開いてオレ達の事を見ていた。
これ、どう説明すりゃいいんだか……。そう考えあぐねて溜め息を零せば、二階席から下りてきたオレ達の姿を目にした一般生徒達が一斉に悲鳴を上げる事にも、悲しきかな予測は出来ていた。


「……なんかごめん」

「……いや。あんたの優しさは有り難く受け取っておくよ」


悲鳴が飛び交う中、やっちまったと後悔の色を滲ませた表情で謝罪の言葉を述べる青海に、オレは周りに気付かれない様に苦笑した。


2017/4/30.



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