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『世界はそっち側』
15


「それで、話というのはね」


それぞれの朝食が殆んど終わりに差し掛かったタイミングで青海が話し出す。
そういえばオレに何か用事があったんだったと思い出し、漬物のたくあんをぼりぼり噛みながら視線で話を進める様に促した。


「明日入寮する予定の転校生の事なんだけれどね、学園に到着する時間の連絡が入ったから伝えに来たんだ」

「成る程。で、何時頃になるんだ?」

「午前十時を予定してるって。大丈夫そう?」

「構わない」


実は明日来る転校生の到着時間を知らされてなくて、何時頃行けば良いのか、あとで聞こうとしていたから助かった。
一応オレが迷って遅れない様にしなきゃだから、部屋戻ったら改めて学園全体の見取り図を確認しとこう。
そんなオレ達のやり取りを横で聞いていた石山は、ビッグマウンテンパフェを掬い取ったスプーンを、口元近くで停止させて「えっ」と驚いた様な声を上げた。


「明日、転校生来るんですかぁ?!初耳なんですけど?!」

「石山が初耳なのは仕方がない。転校生事態、急な話だし、生徒会長には事前に連絡入れていたのに、こいつが一週間も休みやがったからこっちに連絡が入らなかったんだ」

「え、えぇー……。なんっていい迷惑な話。ユーキは何時知ったんですぅ?」

「昨日の放課後」

「それで昨日は、ばたばたしてたんですねぇ」


じろりと睨み付けてくる石山の視線をすいっと流せば「チッ!!」と盛大な舌打ちをかまされた。
オレだって転校生来るなんて話、昨日知ったし。
当然な話だけど、それは事情を知らないこいつらに言っても意味がないから、文句を言われても言い返せない。
唯一事情を知る青海は、助けるべきか、でもどう言えばって感じでおろおろしてる。
そんな時、少し離れた席にいた人物達がいきなり立ち上がり早足でオレ達のテーブルへとやって来た。


「青海先生。転校生が来るというお話は本当なのですか?」

「え?あ、うん。本当だよ」

「しかもその案内役に彼をご指名すると?」

「いや、ご指名って言うか……」

「あなたは黙ってなさい」


「ご指名って、ホストやキャバクラじゃねぇんだから」と言おうとしたら、ぴしゃりとはね付けられた。
威圧感。「喋んじゃねぇよ」という無言の圧力がひしひしと伝わってくる。本当、オレの知るあいつらと全然違うな。
余計な口を挟むのは控えようと口を閉ざせば、その行動が自分の指示に従ったものだととったのか、ふんと鼻で笑ったそいつ―――幡野 孝信(ハタノ タカノブ)は、改めて青海の方へと視線を戻した。


「お言葉ですが先生。この学園に既に在籍している生徒達なら致し方ないですが、新たに当校の一員になる方が最初にお会いするのが『忌子』では、当校のイメージダウンになるのではないでしょうか」


そうきっぱりと言う幡野は意志の強い眼差しを青海に向ける。
幡野は、オレと同じ生徒会役員で副会長を務めている。
凛とした佇まいやすっと伸ばされた姿勢を崩さない彼は、しっかり者で穏やかで丁寧な口調で、少し伸ばされた淡黄(たんこう)色の髪はどこぞの国の王子様を彷彿させる様で、それが幡野の容姿にもマッチしていて、王子でもないのに周りからは王子様だと評価されている。
因みにこれはオレの知る幡野の話。こっちの幡野もおおよそは間違ってはいないが、当然オレに対して穏やかとか温厚とか王子様って所は全くない。
いやぁ、向こうの幡野がホワイト王子だとすれば、こっちの幡野はブラック王子だな。


「でも案内役は彼だと……」

「えー、オレも反対っすわー」


青海の言葉を遮って、一人の男が幡野の後ろからひょっこりと顔を出した。


2017/4/30.



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