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『世界はそっち側』
13


声をかけてきた青海に指をぱちんと鳴らしながら二階席に続く階段を上がって行って良いのかを尋ねた。


「生徒会長を務めているんだから君にも上がる権利は十分あるよ」

「そっか。結城と来たのは良いけど教えてくれなくて困ってたんだ」

「結城君と?もう仲直りしたのかい?」

「いや?さっさと二階上がってった」


「というか仲直りってのも違う気がするぞ?」とこの辺の会話は小声で交わしたから周りの生徒に聞かれる事はないだろう。
「"仲良くなった"じゃなんだか違和感あってね」そう青海は苦笑交じりに答える。


「少し話があってね。朝食摂りながらでも、と思ったんだけど、どうかな?」

「オレは構わない。あんたも上、行けんの?」

「大丈夫だよ」


そう言ってオレ達は一緒に二階に上がって行った。
その際に周りの生徒達が大げさな位ざわめき立って、これは本当に面倒な世界だな、なんて他人事の様に改めて思った。
二階に上がって見慣れた顔触れ達が各々好きな席に着いて食事をしている姿が目にとまる。
下からのざわめきもあったからか、彼等はオレ達―――正確にはオレだけ―――を見て驚いた表情で箸を止めていた。
さて、どこに座ろうか……。見渡して結城の姿を捉えて、結城と風紀副委員長の石山が向かい合って座っている様子に、丁度いいやと青海に視線を送ってみせれば、意図に気付いた青海はこくりと頷き返してくれた。
そうと決まればさっそく。そそくさと二人の座るテーブルまで迷う事無く突き進み、がたんと椅子を引く。


「あ、そうだ。話の前に聞いてもいいか?」

「……おい」


考え事をしていたのか、一瞬遅れて結城の視線がオレに向けられる。ついでに石山の視線も。
席に着いて「え?何?何か問題でも?」ときょとんとした表情でオレは結城を見返す。勿論、これは演技だ。わざとそうして見せたのだ。
眉を顰める結城の代わりに「わざわざどうしてこの席に着いたんですかぁー?」と石山に問われ「なんとなく」と答えておいた。
理由としてあえて挙げるならば、少しでも早く役員達とまた親しい仲になれないかなと思っての行動でもあるが、それがオレの中では自他共に認める一番親しかった結城に強く思っての行動でもある。
そう思って答えれば石山は「……えー……」と不服そうな表情でなんとも言えない返事を返してくる。
そんな石山を無視してオレは少し気になった事を聞こうと改めて青海に視線を戻す。


「あのさ、青海って葬式出んの?」

「そりゃあね。ご家族の方から「通夜にも是非に」とも言われてるよ」

「そっか。じゃあさ、お願いがあるんだけど」

「……ちょっとぉー」


話の途中で遮る様に石山が制止の声を上げる。


「ご飯中にそんな話、やめてくれますー?」

「……あ、悪い。でも直ぐ終わるからちょっと我慢してくれ」

「本当、貴方なんなんですかぁー?もう!!」


てきとうに石山をあしらって青海に話を戻そうとすれば、石山は怒った口調で文句をたらたら零してきた。
確かに、飯時の会話としては相応しくない。
不謹慎な話ではあるが、オレはどうしても夢で書いて届けて貰った手紙の事を青海に知らせたかった。


「あのさ、手紙を書いたんだけど、もし火葬されるまでに誰も気付かなかったら、さり気なくを装って宛名の奴に渡してくんねーかな?」

「火葬されるまでにって……手紙はここにあるんじゃないの?」

「手元に置いてある……らしい」

「"らしい"?」

「置いたのオレじゃねぇんだけどさぁ。その……、いろいろあってだな」


ここで青海に詳しく話しても問題はないのだが、結城と石山に聞かれるとまた説明が面倒な事になる。
さてどう話そうか。そう悩んでいれば「わかった」と何かを察したのか、青海は頷いて了承してくれた。


「宛名の人に渡せばいいんだね?」

「あぁ、頼む」


「ありがとう」とお礼を言えば「お安い御用さ」と微笑む青海に、こいつが味方で良かったと心底思った。
そんなオレ達のやり取りを怪訝な顔で見守っていた結城と石山に「これでこの話は終わったぞ?」と伝える。


「……変な人達ですねぇー。青海先生もどうしちゃったんです?」


「その人と仲良くしてても碌な事ないですよー?」と青海に忠告を入れる石山に「ご心配どうも」と華麗にかわす青海。
オレはオレで石山の言葉をどう受け止めるべきかと頭を抱えた……というか殴りたい。
殴りたい衝動を溜め息を吐く事で緩和させ、さて飯を食うかと思い立ったが、ここの食堂ではどうやって注文をするのか、いまだに教えて貰っていなかった事を思い出す。


2017/4/12.



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あきゅろす。
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