[携帯モード] [URL送信]

『世界はそっち側』
12 Side 結城


朝から嫌な奴に出くわした……。
朝食を摂りに食堂へ来てみれば、何時もなら食堂で見かける事のない人物が、入り口できょろきょろと怪しい動きを見せていた。
関わりたくはないのだが、他の生徒達も不審そうにそいつを見ていた為、場を収める為仕方なく声をかけた―――が、その行動を直ぐに後悔する事になった。


「風紀委員会は困っている生徒を見捨てる委員会だったのか?」


嫌味ったらしい言い方をしながらこいつ―――縣は、にやりと口角を上げた。
食堂を利用するのが初めてだからって、何故オレが面倒を見なきゃならないんだ。
うんざりして縣を無視して食堂に入っていけば、食堂内が一気に騒がしくなる。
これは何時もの事だから気にしない……うるさいけれど。
うしろを着いてくる縣は、驚いた様に少し目を見開いていたが、次第に苦笑混じりの表情に変わった。
恐らく縣に向けられた視線に気付いたから。
二階席に上がる階段を上る途中、いきなり生徒達がどよめき出したから振り返って見れば、縣がオレのあとに続く様に階段に足をかけたのが原因らしい。
一応は、こいつも役員の一人なのだから二階に上がる権利はある……が、こいつの立場を考えると、騒ぎが起きるのは当然とも言える。
けれど、この騒ぎをどうこうするつもりはないから放置。というかなるべく関わりあいたくない。
無視して上がりきれば、二階席には他の生徒会役員と一部の風紀委員が食事をしていた。
まばらに着席されている中、オレが来た事に気が付いた一人が手を振る。


「珍しいの連れてるじゃないですかぁ〜、ユーキ」

「……勝手に着いて来ただけだ」


席に着けば目の前の男、石山 凪(イシヤマ ナギ)がにやついた笑みを隠そうともせずに言ってくる。
石山とは同じ委員会で、こいつは風紀副委員長を務めてはいるが、如何せんてきとうな性格をしている為、学園内で風紀が乱れる出来事が起きても、てきとうな態度で処理をして、てきとうに済ますといった具合で、副委員長としてどうなんだと常々思っているが、ちゃんとやる時はやる男だという事も知っている。
てきとうとは言え、きちんと仕事をこなしているし、C組に通っているだけあって怪我人の手当等には積極的に取り掛かってくれている。
この学園での生徒会と風紀委員の役員決めは、学力・魔力等の下調べを踏まえた結果、前任の生徒会長と前任の風紀委員長による任命制度となっていて、てきとうな性格だろうと選ばれるだけの理由がある、というのをこいつを見ていれば、なるほど納得がいくというものだ。
ただそれで何故あいつ―――縣が生徒の頂点という立場である生徒会長なんぞに選ばれたのかは、前任の生徒会長にしかわからない。
リコール制度もあるのだが、事前の下調べの結果もあって、明確な理由がない限りはリコールされないルールとなっている。
それでも立場もあって周りの対応も酷いというのに、嫌がらせなのか、それとも本心なのか、前任の生徒会長は縣を生徒会長に任命した。
ルールによってリコールから守られてはいるとはいえ、『忌子』である縣が続く訳がない、そう思っていたが、確かに仕事は的確にこなしてはいる。
理由はわからないが、毎月一週間必ず休みをとる以外は仕事が滞る事もなく、完璧に仕事を捌くその様子から他の生徒会役員もオレを含む風紀委員も、その他生徒達もリコールさせる理由が思い当たらずにいる。


(使い物にならないよりかはマシか……)

「―――話の前にちょっと聞いていいか?」

「……おい」


考え事に没頭していれば、隣の椅子が引かれる音がして見れば、置いてきた筈の縣が何食わぬ顔で隣の席に腰かけてきた。
驚いていれば、石山もぎょっとした表情で縣を見ている。
そんな石山の隣の席に着いたのは、生徒会顧問の青海。
教員が食堂に来る事は珍しい事ではないが、生徒会と風紀委員の顧問を務める教師も役員専用の二階席に上がる権利は勿論あるから問題はないが、二階席に上がって来る事は殆んどないに等しい。
その珍しさに疎らに座る他の役員達も二人を見て驚いていた。


「え?えー?何々?空いてる席あるのに、どうしてわざわざここにしたんですかぁー?」

「理由は特にないけど」


遠回しに"別の席に行けよ"と言ったつもりの石山の質問に対し、気付いているのか気付いていないのか、縣はしれっと答えた。
その様子に石山は嫌そうな顔をして、青海はくすくすと笑っている。


2017/3/12.



[*前へ][次へ#]

12/19ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!