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『ミッドナイト・オーバーキラー』
7


食事が終わってネオは教会堂の方へ行き、ニナはお風呂に入りに行った中、オレは毎食後の日課にしている真っ赤な血と、粉末にした骨を加えて冷やしたシャーベットを食べている。
なんとなく、貧血予防とカルシウム摂取になりそうだと思うし―――実際にはどうかは知らないけれど―――なによりも美味しい。
ネオもニナも絶対に食べないから、ずるいとか言われたりもしない。
食べ終わってから食器類を洗ってテレビを見ていれば、お風呂からニナが戻って来た為、オレはお風呂の準備をして入れ替わりで向かった。
ここのお風呂は、ニナの要望で広く大きく造り変えられていて、きれいでオレも気に入っている。
髪と身体を洗ってから湯船に浸かる。今日一日の疲れが癒される様だ。疲れる程の事をした訳ではないのだけれど。
湯船のお湯を両手で掬い上げて、その無色透明なそれをじっと見つめる。
静かなお風呂場にぴちゃりと水滴が滴り落ちる音が響く。
静かな中、お湯に浸かってじっと手を見つめていると必ず思い出すのは子供の頃の事。
フラッシュバックで思い出していく脳が見せるのは、吐き気がする程の嫌な思い出と、無色透明のお湯が真っ赤に変換される光景。
頭の中に響く声は同い年の子供の声と生き物たちの鳴き声、そして両親の怒声に続いて両親の冷静な声。


『あなた、どこの子?』


今じゃもう思い出せない両親の真っ黒な顔に、浮かぶ白い歯が呆れた様子で呟いた台詞に、耳を塞ぐ様にオレは湯船に頭から浸かった。
どうしても思い出したくないのに、どうしても思い出してしまう記憶に、オレは何年経っても逃げられず捕まったままだ。





お風呂場での嫌な気分を晴らす為にオレは教会堂の方へ向かった。
確かネオがいる筈だけど、そこで何をしているのか大体の想像がつく―――……が、気にせずに向かう。
地下の通路から教会堂に続く扉を開ければ、ステンドグラスから籠れる月明かりで色とりどりに照らされる会堂内は、所々影になっている。
身廊を挟んでの一番端の、月明かりも届かず影っている会衆席の祭壇に近い場所に腰かけて目の前の風景を見つめた。
静かな会堂で一人で祭壇を見つめると、なんとなく心が洗われる、そんな気がして落ち着く。
オレのしている事、してきた事は世間的には間違っている事だろう。
神様だって許してはくれない事だろう。
だけどここにいるとオレは間違っていない、そう思える。


「……だから神様もオレを見捨てたんかな……」


ぼそりと呟いた声は、いやに大きく響いた。
座って祭壇を見ていたけど、そのままずるずると倒れ込んで、今度は寝っ転がって祭壇を見つめる。
こんな態度を教会でとるなんて、なんて罰当たりなんだ。そうは思うけど別に誰かに咎められる心配もないからそのまま目を瞑る。
月明かりに照らされ、ステンドグラスを通して輝くあちこちが綺麗すぎて、眩しくて見てられない。
結局自分にはうしろめたい事があって、それを誰かに、何かに再確認される様な事から逃げているのだ。
全くもって矛盾している。


「ここで寝ると風邪を引くよ?」


ふと頭上からかけられた声にはっとして目を開ける。
背もたれ越しの声の主は思った通りネオで、この静かな会堂内のどこにいて、足音も立てずにどうやって近付いたのか、不思議でならない。


「……実はネオは幽霊だったりするの?」

「幽霊だったらこんな風にノラに触れられないだろうね」



びっくりして聞いてみれば、ネオはくすくす笑いながら頬をゆっくりと撫でてきた。
確かに幽霊だったら触れないもんな……ご飯も食べれないだろうし、体温もないだろう。
そんな当たり前の事を何気なく考えていれば「幽霊と言うより」とネオが話し出す。


「どちらかと言えば、悪魔じゃないかな?」

「……自分で言っちゃうんだ」


呆れて言えばネオがにやりと笑う。


2016/11/25.



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あきゅろす。
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