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『ミッドナイト・オーバーキラー』
5


「……ん、」


指だけじゃなく舐め取れる範囲は全部舐めてやろうと、指から掌、掌から腕へと"ソレ"を残さない様に舌に絡めて行く。


「可愛いけど、くすぐったいよ。ノラ」

「勿体ないって言ったのそっちでしょ」

「はは。……ねぇ、どこまで舐めてくれるの?」

「……もういい」

「もういいの?折角なのに残念だなー。ノラもボクも」


残念ってなんなの。
確かに全部舐め取れないのは残念だけど、ネオが残念がる事はないだろう……さっきまで散々楽しんでたのだから。
他愛もない会話をしながら快楽室へ辿り着いて、ネオがその扉を開ける。
開かれた部屋からは、ネオから漂って来た匂いの比じゃない強い香りにふわりと全身包まれた。
口の中に広がる味と全身を纏う香りに背筋がぞくりと震えだす。
薄暗いその部屋で迷う事なくネオが進み、目的の場所へと誘導されるように付いて行く。
足を進めていると、ぴちゃりと水音が足元からして、下を見れば水溜りが出来ていた。
じわりと靴に染み込み、変色していくその様子にオレはきれいだと思った。


「おいで、ノラ」


静かに名を呼ばれてネオの元へ行けば、そこは見慣れた快楽室用の浴室で、ネオの傍にはあまり見た事のない形の大きな……なんだろう、ノコギリ?みたいなのが浴槽に立てかけられていて、その浴槽内には先程見たネオに跨っていた女が俯いて座っていた。
別にただ寝ている訳でも、ネオと"遊んで"気を失っている訳でもなく、ぴくりとも動かない。


「どこが欲しい?中身はどうする?」


立てかけられていた大きなノコギリみたいなのを持ちながらネオが訪ねてくる。
その台詞にごくりとオレは唾を飲み込む。
別にこの状況やネオの行動に恐怖を感じて飲み込んだ訳じゃない。
オレはオレでこの状況に凄く心が悦んでいるからで……つまり、要は、興奮しているのだ。


「髪はいらない。腸の中、詰まってたらその処理もよろしく。あとは何時も通り保管しやすい様にブツ切りにして。あ、血も外に流さないでよ?勿体ないから」

「了解」

「あと、ネオが挿入ってた部分、今日はいらない」

「ちゃんと洗ったよ?中に出さなかったし」

「……気分的にイヤ」

「ボクの結構人気なんだけどなー」


浴槽内に座る"元"人間は勿論―――死体だ。
この光景も、このやり取りも、オレ達には当たり前の事。
既に至る所が傷だらけの血で濡れた"元"人間の手をオレはぺろりと舐める。
さっきネオの指を舐めた時の味と変わらないそれに、うっとりと目を細める。
真っ赤な掌を頬に宛てて、オレはネオの解体作業を見つめた。
戸惑う事も怯む事もなく、罪悪感の欠片もない表情でその大きな得物でぶちぶちごりごりと切りつけるネオのあの楽しそうな表情。
ネオは聖職者ではあるが、同時に犯罪者でもある。
オレとネオは利害の一致で共犯者だ。ニナもそれを知っているし、ニナも無関係って訳ではない。
むしろ、共犯っていう点では、ニナも同じだ。
オレ達は世間体で言えば異端者で、頭の狂った非人道的存在だと思われるだろう。
周りは誰も理解してくれない。
オレ達三人もそれぞれの好きな事には同意は出来ない。
でも、それでもオレ達三人は、お互いの事情を解り合える。
だからオレ達は一緒にいる―――共犯者。
誰もわかってくれない、理解してくれない、誰も誰も……。


「両親の事、考えてる?」

「……別に」

「バレバレだよ?何年の付き合いだと思ってるのさ。大丈夫。周りがどうであれ、ボクはノラを理解してるし、認めてるよ。ノラは普通だよ」

「…………普通じゃないよ」

「ボクらの様な存在の中では、ボクらは普通なのさ。それは周りの生きてる人間が普通なのと変わらないよ」

「……うん。ありがと、ネオ」

「どういたしまして」


ぐちゃぐちゃ音をたてながらじゃなかったら涙の一つでも出たんだろうに。


2016/11/25.



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