『ミッドナイト・オーバーキラー』 4 さてと。オレはご飯の準備を始めますか。 三人分の材料を並べ、カットして二人分と一人分に分けていく。 分ける理由は単純で、使用する材料の一部が異なる物を使うからだ。 中位の鍋と小さめの鍋に水を入れ、調理を開始する。 途中までは同時進行で煮込み中位の鍋を完成させて、小さい鍋を一時中断してオレも別室へと向かおうと火を止めた。 丁度その時、女の悲鳴が聞こえて「お楽しみ中だなぁ……」なんて呑気に考える。 オレは目的地である更に地下にある倉庫へと足を運ぶ。 この倉庫はいろいろな物が置かれていて、日常的に必要な物から「これはどんな状況の時に使うの?」と聞かれてもおかしくない物までなんでも揃っている。 大半は後者の物ではあるが、"それが何か"なんて基本的に知らなくて良い話だ。 そしてこの倉庫には、ネオが買ってきてくれたオレ専用の巨大な冷蔵庫がある―――……あぁ、もう察してはいるだろうが、ネオはここの教会の神父様でオレやニナを拾った張本人ね。 冷蔵庫のドアを開け、ここへ来た目的の物へと手を伸ばし、まだ大丈夫な日付の食材を手に取る。 少しだけ消費作業が遅れて、もう駄目だなってやつもまだ入っていて、冷凍庫の方を開けて入っている量を見て「早く消費しなきゃ……勿体ない事したな」と一人反省をした。 まぁ、仕方ないのだ。この冷蔵庫と冷凍庫の両方に入っているやつ全部オレ一人で消費しなきゃならない上に、ネオがしょっちゅう追加するから追い付かないのだ。 危なそうなやつも捨てる為、一緒に抱えてオレは再びキッチンへ戻る。 捨てるやつを隅っこに置き、食べるやつを鍋に入れる為にカットして小さめの鍋に入れて火を点け煮込む。 ついでにと持って来た液体を器に移し替えてそれを共同の冷蔵庫の冷凍室に入れた。 煮込み終わって簡単に片付けをしてから皿を取り出し、自室に戻ったニナへと声をかける。 「ニナ、ご飯出来たよ」 がちゃりとドアを開ければ、何時もの風景が広がる。 ニナの部屋は薄暗く、蝋燭の灯りだけで照らされていて、薬品の匂いが充満している。 一歩入れば部屋中に置いてある人形達と目が合い、伸ばされる手に捕まらない様に注意しながら歩み進む……オレまで怒られたくないもの。 部屋の奥まで進めば、一際明るい場所に辿り着く。 一番明るいという事はそこにニナがいる訳で、出来れば覗きたくない場所でもあって……あぁ、ほら、近付くにつれてジョキ、ジョキって音がするもの……。 「…………ニナ、ご飯……」 「……待って。もうちょっとでこの子の腕が着くの」 そう言ってニナは、手に持つ肌色の人形の片腕を作り上げて、それを本体へと縫い合わせていく。 ニナの傍らには、先程不気味な音を鳴り響かせていた大きめの鋏が転がっていた。 「冷めてもしらないよ?」 「その時はノラに温め直してもらうから良いわ」 「……自分でやってよ、それ位。あと何体作るの?」 「そうねぇ……この子が出来たら行くわ」 「あ、そう」とオレは短く返事を返して来た道を戻る。 ニナは普段は明るくて、誰もが振り向いて目を奪われてしまう程の可愛らしい女の子だが、趣味はあらゆる人形やぬいぐるみ集めに人形作りだ。 ニナの部屋に"置いてある"人形達は、ニナのコレクション達で、ニナがとっても大切に、大事にしている。 だからネオに取られた事に対して鬱憤が激しいのだろう。 ニナもネオも普段は仲が良いのに、たまーにネオがニナの人形に手を出してしまうのには本当に困ったものだ。 いくら暇潰しだからって、自分だって取って置いたプリン食べられると怒るくせにね。 溜め息を吐きながら部屋を出て、台所にまた戻る。 ネオは、恐らく楽しんだあとはシャワーを浴びる筈だから、勝手に戻ってくるだろうから呼びには行かない。 弱火にかけたままの鍋の中をくるくると混ぜていれば、がちゃりと扉の開く音。 方向からして快楽室へ続く方のドアで、ネオが来たのだと察する。 「ノラ、終わったからおいで」 「あぁ、うん。あと、ご飯出来たからネオは早くシャワー浴びて来て。ニナにまた怒られるよ」 「終わったら入るよ」 「……あ、そ」 かちりと火を消し、エプロンを外してからオレはタッパーを数個とジップロック式の袋を数枚手に取り、ネオと一緒に快楽室へと向かう。 ネオの傍に寄れば、ネオの身体にこびり付いた匂いが鼻の中でつんと広がる。 鼻腔を擽るその匂いに反応してお腹がぐぅっと鳴った。 オレも人間の三大欲求には敵わないななんて思っていれば隣でネオがくすくすと笑った。 「勿体ないし、少し腹の足しにする?」 「………ん」 差し出された指がオレの唇をなぞり、そのまま口内へ侵入する。 口の中に広がるソレがとても甘くて、いや、独特な味で甘味なんて本当はないんだろうけど、でもオレからすれば甘く感じて凄く優しい味。 舐め取ろうと舌を動かせば、口内で逃げ回るネオの指。 範囲の狭い所での鬼ごっこに、じろりと睨めばネオは優しく微笑みながら「ついね」と微笑む。 それからはネオ自身からオレの舌の上に指を乗せてきたから、そのまま大人しく舐め取っていく。 2016/11/25. [*前へ][次へ#] [戻る] |