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『ミッドナイト・オーバーキラー』
9


がしっと思いっきり腕を掴まれ、その勢いのまま壁に再び縫い付けられる。
再び追い詰められた状況になって逃げだそうと試みるが、腕を掴まれたままだから上手く相手を押し退けられない。
さっきの変態とは違って話し合いでどうにかならないか、そう思ったけどぎりぎりと腕に力を籠められてしまえば、どうにもなりそうにないななんて、他人事の様に考える。
ついさっきの状況と今の状況は似通ったものではあるが、違いを上げるとすれば、それはキスをしたいと言った男の顔は麻袋で隠されているという事。
隠されていなければ流石に焦るけど、麻袋を被った状態ならば直接唇同士が触れる事はない―――いや、見知らぬ男にキスされる事自体はもの凄く嫌な事だけど。
まぁ、でも麻袋を外されてしまえば終わりだから結局は被っていようが被ってなかろうが同じ事だな。


「あの、オレもう行かないとなんで放してくれませんか?」

「ごめんね、出来そうにない。もう君とキスしないとこっちも辛いんだ。耐えられない」

「お断りします」


ふごふごと息を荒くしながらなんつう事を言っているんだこの男は……。
背中にぞっと何かが這う様な感覚に襲われ、もう目の前の麻袋に頭突きかましてやろうかと思った時。


「あぁ、もう……コレ被ってると君の顔が良く見えないな」


そうぶつくさ文句を垂れる男に「自ら被った癖に……」と、そう呆れた視線を投げかければ、不意に男が麻袋に手を翳す。
「え、まさか……」そう思った瞬間、麻袋を取る事を頑なに拒んでいた男が、あっさりとその麻袋を脱ぎ捨てた。
顔を見られるのがまずいとか、己の欲を抑える為のものだとか言っていなかっただろか……?
驚きのあまり脱ぎ捨てる様子がスローモーションの様に見えて、つい麻袋を目で追った。
地面にぱさっと力なく落とされた麻袋から視線をゆっくりと戻し、つい先程まで隠され、そして自らの手によって暴かれた男の顔を拝む。
戻した視線が捉えた光景に、オレは驚きのあまり息をつめた。
驚く以外の表現が出来ない。
だってそんな、まさか。こんな事ってあり得ないだろう。誰が予測出来た?こんな事……。


「…………麻袋の意味……」


麻袋を脱ぎ捨てて現れた男の顔は、平凡な顔でも、綺麗な顔でも、恐ろしく整った顔でもなく、麻袋の下は―――……、
















―――ガスマスクだった。

誰がどう見たって全員、口を揃えてガスマスクだと答えるだろうと言う程の誤魔化し様もない立派なガスマスクだ。
麻袋の下にガスマスク。どんだけ隠したいんだよ。これも過剰防衛と言っていい類になるのか?
つーか結局は顔見えないじゃん。……いやレンズ越しに目元は薄らと見えるが、夜だし逆光だしで上手く見えないから変わらないか。
いろいろと突っ込み所満載ではあるが、はたと気付く。


(……いやいや違う、そうじゃない)


麻袋の下にガスマスクという衝撃に驚きすぎて忘れかけていたけど、オレが、オレ達がここに来た理由の根本に確かに存在していた。


―――目の前にいる男は、二週間以上も前に脱獄したという囚人の写真と同じガスマスクを着けていた。


2017/4/12.



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あきゅろす。
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