『ミッドナイト・オーバーキラー』
8
路地裏にはあまり月明かりが届かない。街灯も勿論届かなければ、わざわざ路地裏に設置もしない。
そんな暗い中、背後に月明かりを背負えば自然と逆光となり、形を正確に認識するのは難しい。
更に言えば、現れた第三者の表情が全く見えない。
袋を被っているのだから当然と言えば当然だ。
紙袋を被っているのかと思いきや、どうやら麻袋らしく、第三者の人物が動けばもそっと擦れる様な音が微かに聞こえた。
(……前、見えてんのかな?)
麻袋なら網目の隙間が開いているだろうから、全く見えない事もないだろうけど、視界が悪い事には変わりはない。
わざわざそんな不便でしかない格好をして、この人は何をしているのだろうか?
奇抜な容姿に驚いて悲鳴をあげれば、麻袋を被った人物の方が揺れた。
「ご、ごめんね?散歩してたら君達を見かけて、困ってる様に見えたから助けたんだけど……、もしかして余計なお世話だったかな?」
「えっ、あ、いや。助かりました……」
「そう?なら良かった!!ところで君はここで何をしているんだい?」
「えーっと……、散歩?」
「じゃあ、オレと一緒だね。でもここは君みたいな子には危ないから、大通りまで連れてってあげるよ」
麻袋を被った人物は、声音と体格からして男の人の様で、でもその声が麻袋を被っているせいなのか、くぐもって聞き取り辛い。
怪しい人物に変わりはないが、話してみるとそんなに悪い人でもないのかもしれない。
でも、信用出来る訳でもないし―――容姿が容姿なだけに――― 一緒に大通りまで行くのには気が引ける。
そもそも一人で先に帰る訳にもいかないから、その申し出に断りを入れた。
「そうかい?でもここら辺、変な人が多いから一人だと危ないよ?」
「……その変な人に現在進行形で絡まれてますけど」
「えっ?!オレ、変な人に括られちゃうの?助けたのに?」
「どう見たって怪しいでしょ……」
麻袋を指しながら言えば「これかぁ……」と納得した様に頷く男。
「でもこれ、外せないんだ」と話す男に首を傾げた。
「どうして?」
「顔を見られるとまずいんだ」
「でもそれ、結構目立ってると思うけど……怪我してるとかですか?」
「いや。なんて言えば良いのかな……。己の欲を押さえる為にしている、って所かな?」
くすくすと小さな笑い声が聞こえた。
どんな欲を持っていれば麻袋を被る事になるのやら。
聞いてみたいけど、これ以上関わる訳にもいかないし、何より情報収集に来ているのだ。
このよくわからない怪しい人とは、早急に別れる事にしよう。
そうと決まれば早速。そう思って麻袋の男に視線を向けたら、何時の間にか男の顔―――正確には麻袋だけど―――が目の前にあった。
びくりと肩を揺らして麻袋を見つめ返すと「フー……、フー……」とくぐもっていた空気が、穏やかなものから荒いものへと変わっていた事に気付く。
「あの……?」
「いや……良く見たら君、オレ好みの顔をしている!!どうしよう!!今すぐキスしたい!!」
「…………………………え"っ?」
ガシィ!!、と両肩を掴み、壁に背を押し付けられ、更に距離を縮めてくる麻袋の男。
おいおいおいおい!!またこのパターンかよ!!
ついさっき危機を脱出したばかりだというのに。
しかも今はっきりと"キスしたい"と言ったぞ、この男……。
変人に加えて変態かよ……ついてないなぁ、オレ。
2017/3/12.
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