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『ミッドナイト・オーバーキラー』
5


「それと、もう一件あるんだが」


そうガレットさんは言いながらサリアさんに目配せすれば、サリアさんはこくりと頷き、持っていた別の書類が入っているのであろう封筒をガレットさんに手渡して、再び一歩うしろへ下がった。
ガレットさんがネオにこういった話を持ちかける時、何時も思うけど部下の人達にネオやオレ達の事を話しても良いんじゃないかなって思ってしまう。
まぁ、話されてしまうとこっちが困るし、サリアさんもハングさんも知らない方が良いだろうし、正直オレ達との間にある見えない境界線には助かっている。
手渡された封筒からガレットさんが中を取り出し、再びネオに手渡す。


「こっちは、先程の事件とは別件ではあるが、これも頼めるか?」

「……脱獄囚?」

「あぁ。少し前に囚人が脱獄しているという話がきてな。……それも脱獄して二週間以上も経ってからの報告だから、もしかしたら街を出ている可能性がある」

「それは厄介だねぇ」

「……この写真が囚人さんですか?」

「ああ」


書類にこれまた添えられている写真を見れば、どうやら収監される前に撮られたものと思われるもので、囚人番号の書かれた板?を首から下げて、数字の書かれた沢山の線―――恐らく身長を示す線―――を背景に撮られていた。
その写真は何故か二枚あって、最初の一枚はごく普通のもので、若い男が写っている。
結構見た目は良い方で、ネオやガレットさんにも負けてない容姿をしているから、一体何をして刑務所に入ったのか謎だな……。
小さく溜め息を吐いてから次の写真を見て……正直、絶句した。
ネオと二人で驚いて固まってしまったが、確認の為にガレットさんに視線をやれば、こくりと頷きを一つ。


「因みにその写真は、同一人物だ」

「……こっちの顔が完全に隠れてるのを撮る意味は?」

「普段からそれを着用して生活しているらしくてな。収監前も収監後も、その姿だったらしい」

「それは許して良い範囲だったのかい?」


流石のネオも、嘘だろうって表情でガレットさんから改めて写真に目を向けた。
オレも視線を戻すが、ガレットさんの話によればこの囚人さんは、日々の生活でその人にとっての"必需品"となっているらしいアイテムを装着したまま脱獄したらしい。
もし、その話通りの姿で街中に居たとすれば、それはもう目立ってしょうがないだろう。
リスクの高すぎる行動は、どんなに信念が固かろうと少しは妥協しないといけないレベルな姿だ。


「だってこんな……隠しようもない立派なガスマスク着けてるって……、なんなんだい?彼は……」


そう。ネオの言う通りこの囚人さん、ガスマスクを着けているのだ。
一体何故、普段の日常生活を送る上でガスマスクが必需品となるのか、この人は常に毒ガスか何かに脅かされているとでも言うのか……謎だ。


「囚人に関しては近隣の軍警にも伝わっているから、君達は一先ず連続殺人の犯人の方を当たって欲しい」

「了解。まぁ、囚人に関しても何かしらの手ががりは拾えるだろうね。ガスマスクだし」

「でもこんなに目立つ人、普通の生活はしてないんじゃない?」

「そこは、ほら。この街の住人は何も表を歩く人間だけじゃないからねぇ」


……成程。目立つ容姿だからこそ、もし隠れて生活をしているのであれば、多くの人が行き交う表通りを歩いている人間より、路地裏といった裏道を歩く人間の方が情報を持っている可能性は高いな。
暗がりに紛れて生きる住人達はそういった事には敏感でもある。良い情報が取れそうだ。


「では、宜しく頼む」

「まぁ〜かせてぇ〜」

「ネオに付き合って無茶はしないようにな」

「はい」


去り際、最後にオレの頭を撫でてからガレットさんは、サリアさんとハングさんを引きつれて教会を出ていった。
それを見送りながらガレットさんに撫でられた頭を擦っていれば、くすりと隣でネオが笑った。


「……何?」

「いやぁ?……彼はノラの事が可愛くて仕方ないんだろうねぇ」

「別に、オレだけじゃなくてニナの心配もしてたでしょ。それに、オレが子供だからってのもあるだろうし……」

「それだけじゃあ、ないんだけどね」

「え?何?」

「んーん。なんでもなぁ〜い」


最後の方、小さい声で呟かれた言葉はオレの耳にまでは届かず、聞き返したけどネオはオレの頭を撫でながらはぐらかした。
なんなんだ、一体……。そう溜め息混じりに思いながら髪を弄れば、ほんの少し寂しいななんて思った。


(……やっぱり、頭撫でられるのはガレットさんの方が良いなぁ……なんて)


どうしてそう思うのか、わからないけれど言ったらネオが拗ねそうだから黙っとこう。


2016/12/31.



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あきゅろす。
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