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『向日葵の咲く頃には』
いざ自室へ


その後、何事もなかったかの様な振る舞いで連絡先を交換するという流れに流されて―――目の前で「とりあえず交換しようか」と素敵なイケメン笑顔で言われれば、はいと頷く以外の選択肢はオレにはなかった。チョロいとか言うなよ―――そして事務室前まで戻ってきた。
ここから先は事務管理のおじさんが寮までの道案内をしてくれるらしく、佐野さんとはここでお別れだ。


「では月ヶ瀬君。またお会いしましょうね」

「……ハイ……」


素晴らしい程の完璧な猫かぶりに逆に感動を覚える。
理事長よ、秘書がこんなんで良いのか……。オレ的には凄くアリなのだが、学園的にはって所がな。
手を振って立ち去る後ろ姿を見届けてから、オレは靴を履いておじさんの案内で校舎を出る。
校舎から寮までの道は、別れ道はあれど入り組んでいる訳ではないから簡単に着く事が出来た。
寮入口近くの寮管理人室におじさんが一言声をかければ、そこから新たな人が出て来た。
どうやらこの人は寮を管理する内の一人らしく、管理室にはもう一つの人影を視認する。
管理人さんが出て来た為、おじさんは事務室へと戻り、オレは管理人さんと簡単に挨拶を交わして、自室まで案内された。
同居人がいない事や鍵についての説明を受けた事を話したり、鍵の施錠のやり方とかを歩きながら聞いた。


「着いたよ。ここが君の部屋だ。中には最低限の家具とか揃ってはいるけど、何か必要な物とかあれば増やして構わないからね」

「はい、ありがとうございます」


早速教わったやり方で鍵の解除をする。
簡単な方法で、ただ暗証番号が登録されている学生証を確認画面に翳すだけ。
暗証番号が一致すればロック解除という仕組みらしい。
確認が済んで、ぴっと音と共に続けて、かちゃんと鍵の開く音を聞き、管理人さんがドアを開ける。
今日からここがオレの帰る場所で、生活する所か……そう思えばどきどきしてきた。
……が、入ろうと思っても目の前で管理人さんが立ち止まっている為、オレはいまだに廊下にいる。
どうしたのかと思って様子を窺えば管理人さんの目線が下を向いている事に気が付き、オレも下へ向ければ、そこには数で言えば二人分の靴が玄関にあった。
この部屋はオレが入るまでは空き部屋なうえに鍵は暗証番号式だから開く事はない筈。
オレには同室者がいないからその可能性もない。
……となると、この靴は一体誰の靴だ?


「……えっと、前の使用者の忘れ物とかですか?」

「いや、君の入寮日に合わせて掃除をしたからそれはない。という事は……」


管理人さんには思い当たる節があるらしく、呆れる様に溜め息を吐く。
どうしたのか聞こうとしたその時、部屋の奥から『ばしんっ!!』という渇いた音と、人の声が聞こえた。
何事かと思って肩を跳ねさせれば、管理人さんが少し間を開けてから「ちょっとだけここで待っててね」と冷めた笑顔で告げてから一人中に入って行く。
その間にも何かを叩く様な渇いた音と誰かの悲鳴は絶えず、めっちゃ怖い。
なんなの……何が起きてるの?
すたすたと先へ進む管理人さんが共用スペースと思われる所に入ったあと、迷わず左へ曲がって行った。
玄関からじゃどういう構造になっているのか見えず、どこへ行ったのかわからない。
わからなかったけど、思いっきりドアをばんっ!!と開ける様な音がしたから、管理人さんが向かった先には恐らく別室があるのだろう。


「やっぱり君か!!勝手に空き部屋使うなって何度も言っているだろう?!」

「あー?うっせぇな。んなのオレの勝手だろー、がッ」

「んぁああッ!!」


管理人さんが怒鳴ったかと思えば誰か別の人の声も聞こえて、また渇いた音と共に、今度ははっきりと聞こえた悲鳴……にしてはちょっと艶めかしい声……ん?艶めかしい……?
オレは恐る恐る部屋に上がり、通路と共同スペースの合流地点の壁からこっそり左側を覗いて見た。
開け放たれているドアを見て、やはり個室があったのかと思い、見渡せば右側にも同じ様に、でも扉は閉められたままの部屋があった。
本来は二人部屋だからそれぞれの個室に割り当てられるのが容易に理解する。
さて、二人部屋用といってもそれなりの広さのある部屋を軽く見たが、どうしても左側から聞こえてくる、今も尚続く争う様な怒声と悲鳴が気になって、今度はその部屋を覗いてみた。
……が、この時オレは大人しく玄関で、いやそれよりも廊下の辺りで待っていれば良かったなと、後悔する光景が広がっていた。


「…………………は?」

「あっ、月ヶ瀬君……」

「あん?誰だお前」

「ひぅ……、あ"ぁ"ッ!!」


覗いたその部屋の中では長身のインテリ系イケメン眼鏡男子がシャツの釦を全開に肌蹴させ、おもっくそ全裸な男子を踏みつけながら、短い鞭みたいなのでその全裸男子をぶっ叩き、ぶっ叩かれている全裸男子は頬を紅潮させ、嬉しそうな顔付きでよがっていた。
ちょっと待て。これはどういう状況だ。ナニしてんのこの人達……!!


「踏みつけて鞭はないけどインテリ系イケメン眼鏡男子との絡みは羨ましい……」

「月ヶ瀬君?どうかした?てか玄関で待つように言ったのに……」

「へっ?!あ、あああいや、なんでもないっす!!あははは〜」


ぼそっとうっかり呟いた本音を聞かれたかと思って慌てて誤魔化した。大丈夫だったかな?
てかナニをしている男子二人は、第三者がいても気にせず続けていて、すんげぇ気まずいんだが……。


「とりあえずソレやめないか!!昨日言っただろう、今日からここに使用者が来るから勝手に入るなって。いくら君のカードが特別仕様だからって職権乱用だよ」

「マジで人、入んのかよ。便利だったのになー、ここ」

「というか遊ぶなら自室でしろと何度言えば…」

「片付けんの面倒だし、汚されるのはもっと御免だ」

「その言葉そっくりそのまま返すよ。……ならお相手の子の部屋でやりなさい」

「こいつが同室の奴にはバレたくねぇっつーからここ来んだろーが」

「………」


とりあえず二人のやり取りを聞いているが、このやり慣れた感のある会話からして、この光景は一度や二度の話ではないんだなと冷静に判断した。
管理人さん、お疲れ様です……てかこの部屋どんだけの回数使用されてたんだ……。
しかもこの普段滅多に見る事のない光景を管理人さんは"お遊び"と表現していたが、果たしてそんな可愛げのある言い方で良いのだろうか……。



2015/6/5.


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