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『向日葵の咲く頃には』
これからの話


佐野さんがノックをすれば中から返事が返ってくる。
静かにドアを開き、一礼をしてから「お連れしました」と中にいる理事長に一言声をかけた。


「いらっしゃい、慎君。お入りなさい」

「失礼します」


言われて返事をすれば佐野さんが横に避けて、すっと手で理事長室へ入るよう誘導の動作をする。
それに従って入れば、やはり静かにドアを閉める音が後ろからした。
「楽にして」と言われ恐る恐るソファに座れば、程良い柔らかさのソファでちょっと面白かった。
高そうだなと座り心地を楽しんでいれば、くすりと笑い声が聞こえ、はっと気付いた時には遅く、理事長と佐野さんに微笑まれていた。
やってしまった……恥ずかしい……!!


「す、すみません……」

「気にしなくて良いよ。君は覚えていないだろうが、実は君と私は初対面ではなくてね。といっても会ったのは君が生まれた時と、二歳位の時なんだけど」

「え、そうなんですか?……すみません、覚えが……」

「幼かったんだ、仕方ないさ。大きくなってからは初めてだからね」


そんな自分の子供を見るかのような視線を向けられて、どうしたら良いのか悩んでいれば佐野さんがお茶を用意してくれた。
お礼を言えば微笑まれ、またどきりと心臓が高鳴り、頬に集まる熱に気付かれぬよう、さっそくお茶に口を付ける。
佐野さんが理事長に「そろそろ説明を始めては?」と促して理事長も頷いた為、オレもお茶を机に戻す。
因みに理事長も年相応の対応に顔も整っていて、自慢じゃないがオレの両親も顔は良い方だから学生時代は揃ってさぞモテたであろう……。
しかも今は佐野さんが理事長の隣にいるから更に目の保養になっている。ありがたや。


「さっそくだが、我が校の説明に入らせてもらうね。といっても高校だからね。慎君が今まで通っていた学校とそんなに違いはないと思うから簡単で悪いけれど」

「いえ、大丈夫です」


それから学園の話が始まった。
話によるとここでは基本的に生徒会が主体となり、風紀委員が規律を守る校風で、行事等あらゆる事柄も基本は生徒会や風紀委員、学生で決める事になっているらしく、これは卒業後の事を考えての事らしい。
なのであらゆる事柄の最終決定権は生徒会や風紀委員にあり、教師達は必要最低限しか関わらないのだとか。
それで大丈夫なのかと思ったが、設立当初から変わらず行ってきているらしく、案外平気なもんなんだと感心した。
更にオレの通う教室はB組で、担当教師に事前に聞いた話では仲の良いメンバー揃いらしい。
因みにクラスは各学年全て5クラスあって、A組は成績が優秀な人や役員達が集まるらしく、一際目立つクラスで、逆に5クラス目であるE組は成績や態度等は言う程酷くはないが、やはり違った意味で目立つメンバーが多いらしい。
オレが充てられたクラスはB組、というのは転校早々良いスタートだなと思った。
次に寮に関しての説明を受ける。
寮までの道はまた案内されるらしく、そこは省いて寮での大切な事を話された。
まず寮生活な為、基本的に二人部屋で同室者との共同生活を送るのが基本だが、オレは転校して入る為同室者はいないらしく、実質一人部屋だそうだ。
部屋の鍵は暗証番号式で、その番号は渡された学生証に登録済みになっていて、なくさないよう常に持っているように言われた。
寮には必要最低限の文具品や日用品、更に食べ物類を販売する購買が設けられているらしく、必要に応じて利用出来るようになっている。
購買に置いていないもので必要な物があれば学園を出て直ぐ近くのコンビニやスーパーに買い出しに行っても可能との事で、その際は寮の管理人に一言声をかける事を忘れない事。
外泊する場合や、休日に長時間寮を離れる場合は手続きが必要で、寮には夜の21時までに戻れば良いとの事。
いろいろ説明を受けて、全寮制と家から通うのとではやっぱり違うなと思った。
「あと、わからない事は隣室の子とかクラスの人に聞くと良いよ」と言われ一先ず説明は終わった。



「じゃあ、次ね。ここからは理事長として、ではなく、私個人からの話になる」

「?」

「ここの学園の生徒達についての話でね。理事長として話すとなると、"彼等はとても優秀で優しくて良い子達ばかり"としか言えないからね。だからここからは私個人の彼等に対する感想というか……」

「はぁ……。なんでしょうか」

「実はね、ここの学園はエスカレーター式で運営していてね。殆んどの学生が幼稚部からの付き合いのある子達が集まっているんだ。私自身もここの卒業生でね。この学園の特色については十分に理解しているんだけれど」


「ふぅ」と一息吐く理事長が何を言おうとしているのかわからないオレは続きの言葉を待つ。
佐野さんも理事長の隣で苦笑しているから佐野さんはこれから話す内容を知っているのだろう。
少し間を置いてから理事長が再び口を開いた。


「ここに通う最近の子達は、役員の子を含めてやんちゃな子達が多くてね。そりゃ幼稚部からの付き合いだから、それぞれがお互いの性格やらなんやらまで知り尽くしている訳だから、はっちゃけられるんだろうけど、それでも君からすれば驚く光景ばかりになると思う。まぁ、でも一般的に考えての悪い事は……多分していないから、行き過ぎた行動じゃない限りは自由にさせているんだ」


「私の時代もそうだったしね」と思い出を浮かべながら話す理事長とは反対に、オレは話された生徒達に対して「普通じゃね?」と思っていた。
高校男子なんて人によっては馬鹿な事をするし、わいわい騒ぐし、喧嘩も殴り合いもするだろうし、やんちゃだって普通な事だと思うのだが、何がそんなにびっくりする事なんだ?
あ、不良とかそんな怖い人だらけとか?
でも良い子達ばかりって言ってたしそれはないか。


「高校生なんですから普通なんじゃ……?」

「確かにまだまだ子供だし、社会に出ている訳でもないからね。それでも慣れるまでに時間はかかるかもしれないね」

「そうですか。なんか良くわかりませんが、わかりました」

「すまないね。でも本当に悪い子はそんなにいないんだ。……多分」

「………」


自信なさげに視線を外しながら言う理事長を見て「一体何があるんだこの学園には……」と不安になってきたオレでした。



2015/5/20.


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