『向日葵の咲く頃には』
天国への階段(良い意味で)
―――数日後。
オレより先に旅行へ行った両親の代わりに、家に来た親戚に見送られてオレも家を出る。
荷物は事前に送ってあるから今持ってる手荷物は必要最低限の物しかない。
一年程お世話になった学校にも、友達にも挨拶を済まし、一年程着た制服は事前にクリーニングに出して今はクローゼットにカバーをしてかけてある。
ＧＷは多分寮で過ごすだろうから、次に家に帰ってくるのは夏休みか……。
「……ちょっと寂しいかも」
そう思いながら乗り物を乗り継いで、そこから歩いて行けば目的の場所に辿り着いた。
割と普通の門構えを潜り、広く綺麗にされた敷地を見渡す。
自然も豊かで、でも鬱蒼と生い茂っている訳でもなく、誰がやっているのか知らないけど恐らくは剪定せれているのだろう。
校庭を見ても広くてのびのびと運動が出来る辺り、運動部とかは部員数多くいても問題なさそうだ。
目の前に見える光に照らされ白く見える建物は、近くで見ると薄らと水色がかっていた。
建物の入口やら、外から見ての構造からするにどうやら校舎のようで、門からここまでの道のりの長さに若干疲れを感じながらもオレは事務室に続くと思われる入口に近付き様子を窺う。
来訪者受付と思われる窓口に人影を見付け、そろりと近付けば相手もオレに気付いたらしく、がらりと受付の窓を開けて「こんにちは」と挨拶をして来たのに対し、オレはお辞儀で対応した。
「御用はなんですか？」
「あの、オレ転校してきた月ヶ瀬です。通知にここへ着たら理事長室に行くように書かれてたんですが……」
「月ヶ瀬様……はい、お伺いしています。到着された事をお伝えして来ますので、今暫くこちらでお持ちいただけますか」
「あ、はい。お願いします」
そう言って物腰の柔らかさを感じ取れる優しそうな受付のおじさんが理事長室に電話をかける。
その間、見える範囲で校舎内を見渡し、綺麗な校舎に感動した。
オレが通っていた学校も綺麗ではあったが、ここは新築なのかって位ぴっかぴか。
業者にでも頼んで掃除してもらってるのかな？なんて贅沢なんだ。
そんな事を考えていれば受付のおじさんが「お待たせいたしました」と声をかけてくれた。
「ただ今お迎えの方がいらっしゃるそうなので、こちらでお待ちください」
「はい。ありがとうございます。……あの、ここって新築なんですか？」
「いえ、そんな事はありませんが、何か？」
「あ、いえ、すみません。あまりにも校舎の外も中も綺麗なものですから……」
「お褒めに頂き光栄です。学生の皆様方に快く学業に専念いただけるように務めた甲斐がありました」
にこりと優しい笑みを向けるおじさんのその優しさに、ここの生徒は愛されてんなとほっこりした。
すると「お待たせしました」と廊下側から声がして振り向けば、そこにはぴしっとノリのかかった背広姿に綺麗な深緑色の髪のイケメンがいた。
オレが振り向いたのを確認してからにこりと微笑まれ、イケメンの微笑みを目の当たりにしたオレは硬直した。
……か、格好良い人が!!超格好良い人が目の前にいる……!!
「初めまして。本日、理事長室までの案内をさせていただきます、秘書の佐野と申します」
「………」
「……月ヶ瀬君？」
「……っは!!す、すみません!!初めまして!!」
「いえ。では参りましょう。こちらに履き替えてお入りください」
「あ、ああありがとうございますっ」
綺麗に揃えられたスリッパに履き替えて、靴を少し端に整えてイケメン秘書の佐野さんの傍に行けば、にこりと微笑み歩き出す。
傍に寄った事で気付いたが、佐野さんめっちゃ良い匂い……香水のチョイスが最高に良い。
バレない程度に気を遣いながらくんくん嗅いでいれば、それまで無言で歩いていた佐野さんが話し出した。
だけどそれは他愛もない「編入試験お疲れ様でした」とか「事情は理事長から聞いてます」とかそんな世間話で、一瞬嗅いでるのバレたかと焦ったオレはほっと息を吐いた。
「試験の一週間前に旅行の話をされて、急だったのでびっくりしました」
「転校の話はもっと前にされていたのですが、秘密にしていたのですね。大変だったでしょう」
「両親があんな感じなのは昔からなんで、慣れてますよ」
「それはそれは」
くすくすと静かに笑う佐野さんの揺れる肩を見て「大人だなぁ……良いなぁ……」って思った。
てかイケメンすぎてさっきから心臓うるさい位なんですけど。
佐野さん程のイケメンになら本当掘られたいですよ。
そんな邪な思考をしているなんて思いもしない佐野さんは「こちらです」と、ある部屋の前で止まった。
長い階段や廊下を歩き辿り着いた部屋のドアに付いたプレートには[理事長室]と書かれていた。
2015/5/12.
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