『向日葵の咲く頃には』 2 『ついに始まりました!!午後の部最初の種目、騎馬戦!!まずはどの騎馬隊が先に辿り着くか……おぉーっと!!先に戦が始まったのはどうやら騎手三年生同士!!流石は三年生!!はちまきの取り合いはまるで意中の相手の争奪戦の如き熱い戦いを繰り広げています!!さぁ、他の騎馬隊も彼等に続けぇ〜!!』 「一体どういう実況内容だよ…………」とツッコミを入れたくなったが、周りは気にせず盛大に応援している辺り、これが体育祭での実況の姿なんだとオレは大人しく受け入れた。 土煙が舞って視界が悪くなったが、騎手達のお互いにハチマキを奪い取る姿の白熱さは応援席にいるオレ達にもちゃんと届き、皆前のめりになって彼等の活躍を目に焼き付けていた。 岸谷は騎手役で参加すると事前に聞いていたのだが……あれ?岸谷のいる騎馬隊は何処にいった?しまった、見失った……!! きょろきょろと視線をさまよわせていれば、とある一騎に見覚えのある顔を見付けて、視線がとまる。 (栗山先輩は騎馬役なのか……) 見付けたのは岸谷ではなく、騎馬戦に出ると事前に知らされていた、騎馬役を務める栗山先輩の姿だった。 土煙の酷さは応援席にいるオレ達でもわかる程で、出陣している選手達、特に騎馬役の生徒達は土煙だけでなく、騎手を担ぎ、崩れない様に細心の注意を払わないといけないという、相当神経を削るものがあるのだろう、少しばかり顔を顰めている栗山先輩は珍しく、申し訳ないと思いつつも新鮮だと思った。 少しそれがおかしく感じて、くすりと笑みが零れてしまい、それが横に立つ宇高の耳に届いてしまったようだ。 「何笑てんの?真剣に応援せぇや!!」 「ごめん!!……ごめんついでに岸谷の騎馬隊どこですかね?」 「あっほう!!あそこおるやん!!淳ちゃんめっちゃ格好良く活躍しとるやん!!一番輝いとるやん!!マコっちゃん目ぇ節穴かいな?!いや腐っとるな!!」 「え、あ、うん、ごめんね」 興奮冷めやらぬまま叫ぶ宇高の様子に肩を跳ねさせたが、何処と無くその物言いに引っ掛かりを感じた。 興奮状態とはいえ頬を真っ赤に染め、きらきらと瞳を輝かせながら罵る宇高に「もしかして?」と疑問を抱く。 気のせいならそれでも構わないのだが、気になった以上、消化してしまおうと応援に熱を上げている宇高の肩をちょんちょんとつつきながら声をかける。 「宇高って岸谷の事、好きなの?」 気のせいという可能性も完全には捨てきれないから、さり気なくを装った声音で聞いてみた。 応援に夢中になっている宇高の耳に、もしかして届かないかもとも思ったが、どうやらその心配はないようだ。 ぴたりと応援をやめて、微動だにしない宇高に首を傾げていれば、突然ぶわわっと顔を真っ赤に染めながら勢い良くオレの方へ顔を向けた。 「んな……ッ?!な?!な、なな何言っとんねん、突然!!」 「いや、なんとなーく岸谷に対する宇高の言動や今の状態やらなんやら見てたら、そうかなぁ〜?って。当たってたようで何より」 「んな……?!んな……!!」 真っ赤のまま、金魚の如く口をぱくぱくさせながら慌てる様子に「そっかそっか〜!!」と一人納得してうんうん頷く。 暫くぐるぐると考え込んでいた宇高は、オレから顔を背け、俯きながらぽつりと言葉を零した。 「……変、かな?」 「え?何が?」 「ボク、が……淳ちゃん好きなん……」 問われた内容が意外な物で、オレは一瞬反応が遅れてしまった。 何故 宇高はそんな風に思うのか、オレにはわからない。 オレが宇高と岸谷と一緒に過ごした時間はまだ短い方だが、それでも二人を見て、二人の仲の良さを間近で見ていれば、恋愛感情抜きにしたとしても好いている事をおかしいと思う訳がない。 そして何が切っ掛けかはわからないが、一緒に過ごしてきた時間の中で、宇高が友達としてでなく、恋愛対象として岸谷を好きになった事を、オレは変だとは思わない。 「全然変じゃないと思う。岸谷は格好良いし、優しいし、良い奴だし、好きになるのもわかる。だから宇高が岸谷を好きな事は変でもおかしい事でもなんでもないよ」 「……マコっちゃん」 「あ!!オレの言う好きは友達としてだから!!安心してね!!」 「そういやマコっちゃん、そっちの人やったな。……そっか、変やないんやな」 「うん。そうだよ」 ほっと一息吐いた宇高は本当に不安だったんだろう、その安心した様な表情を見て、本当に好きなんだなと胸がきゅんと鳴った。 2017/7/14. [*前へ][次へ#] [戻る] |