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『向日葵の咲く頃には』
7


若干の気まずさと時間も時間な為、オレ達は店を出た。
本当に佐野さんが全額支払ってくれて、申し訳なく思ったけど、ここは大人しく有り難くごちそうされておこう。
行きは駅での待ち合わせにしたけど、帰りは一緒に学園までタクシーで帰った。
因みにタクシー代も佐野さん持ちで、オレは盛大にお礼を述べた。
寮の入口で別れてエレベーターに乗り込み、オレは自室のある階のボタンを押して壁に寄りかかった。
佐野さんに曖昧な返事をしたのは、本心からだった。
佐野さんとのちゃんとしたやり取りは、入寮した日と、デートのお誘い受けた日と、今日の三回だけ。
少しだけメールのやり取りはあっても、それでもお互いを知るにはまだ少なすぎるとも思う。
だから曖昧にしか答えられなかった。こんな状態のままで、オレが知るよりも前からオレに想いを寄せてくれていた佐野さんに応えてしまうのは、失礼に値するから。
でもイケメンを手放すきっかけにもなってしまった事に少しばかり悔やんでいる自分がいて、本当最低だなと自嘲する。
そんな心境を重たい溜め息と共に吐き出す。
時間を貰ったからには真剣に佐野さんの気持ちに答えなくては。
そう気持ちを入れ替えた矢先に、佐野さんの言葉がふと脳裏に蘇る。

―――"今、好きな人はいる?"


「……好きな人、かぁ……」


さっきはこの質問に対して答えられなかった。
自分の中では好きな人はまだいない。この学園に来て、まだ日が浅いのだから当然と言えばそうなのだ。
岸谷と宇高には早々にお断りされたし―――あの時はオレも冗談半分で言ったけど、二人とは友達という関係の方が良いと思う―――栗山先輩には何度かお誘いされてるけど、本心かどうかわかんないし―――先輩の噂は置いといて―――間宮先輩……は、なんか突っかかってくるし、この人はそう言った意味とはまた別だろう。
あとは―――……。


「…………」


残る人間の名前が浮かんだ瞬間、部屋を出る前の出来事を一緒に思い出してしまった。
ほんの少し頬に熱が集まり、佐野さんとの事があったあとに何考えてんだと頭を振って、考えるのをやめた。
兎に角、今はまだ好きな人もいないし、フリーだし、その事を踏まえてちゃんと佐野さんの気持ちと向き合おうと、改めたタイミングでエレベーターが目的の階に着き扉が開いた。
とりあえず疲れたし、明日は学校だから今日はもう風呂入って寝よう。そう思って自室に向かっていれば、あと少しという距離で突然部屋のドアが開かれた。


「……?!」


突然開かれた事に驚いて歩みを止めて、ドアを凝視した。
オレ自身はまだドアとの距離があるから鍵も、当然ながらドアを開ける事も出来ない。
なのに、ひとりでに開いたドアの謎に思考を廻らせ、いきついた候補は泥棒か、または一條か。
今この状態では後者は勘弁して欲しい所だけど、泥棒という可能性も勘弁して欲しい。だったら一條のがまだ良い。
そんなどっちも嫌な可能性を考えていれば、誰かがオレの部屋から出て来た。
そしてその出て来た人物の顔を見てオレは「なんで?」と疑問を抱いた。


「……何やってるんですか?間宮先輩……」

「あ?」


声をかければ振り向いた間宮先輩と目が合った。
間宮先輩はオレの顔を見た瞬間、それはもう嫌そうに顔を歪めて、素知らぬ素振りで部屋の鍵をかけた。
いや、今から入るんですけどね?


……じゃなくて!!


「てか、何 人の部屋に勝手に入ってるんですか?!不法侵入ですよ?!」

「知らないのか。生徒会長と風紀委員長の学生証には、万が一の備えに何処の部屋の鍵も開けられるんだぜ?因みに一條探しに入った」

「あんたも職権乱用かよ!!」


どうなってんの、ここのツートップ!!
思わず頭を抱えて言えば、気にするでもなく間宮先輩は当然だろうみたいな顔を晒してから立ち去って行った。
もう訳がわからなくて、オレは脱力しながら部屋に入ってベッドに潜り込んだ。
お風呂は明日の朝、入ろう。


2016/11/19.



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あきゅろす。
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