[携帯モード] [URL送信]

『向日葵の咲く頃には』
6


どうしたものかと悩んでいれば、くすりと佐野さんが笑ったから視線を佐野さんの方へと戻せば、ふわりと優しい微笑みでオレを見ていた。


「その噂、本当の事なら勝手に知っちゃったのまずかったかな?ごめんね」

「あ、いえ、それは……」


謝る佐野さんに、実際本当の事だし気にしていないという事を伝えた。
まぁ、その事実のせいで恋人と長続きしない悩みはあるんだけど、だからって佐野さんが謝る事でもない。


「オレ、そういった行為にトラウマあって。いざって時にそれ思い出しちゃって出来ないんですよ。相手にもそう言って、待っててもらってたんですけど、その内駄目になっちゃって……」


説明して、ちょっと切なくなった……まじ過去のトラウマ女、許すまじ。
そんな事を考えているオレをよそに、佐野さんは真剣な面持ちで話を聞いてくれた。
「……そこまで真剣にならなくても良いのでは?」と思って少し首を傾げる。


「……勿体ないな」

「え?」

「今までの彼氏共。待ちきれずに月ヶ瀬君と別れるなんて、勿体ない」


そう呟く佐野さんの双眸が細められ、その突き刺さる様な視線にどきっとして、視線を泳がす。
なんというか……ここまでいたたまれず、そしてこんなにもどぎまぎする感覚は初彼氏が出来た時以来だ、なんて考えていれば「オレなら……」と佐野さんが言葉を紡ぐ。


「オレなら月ヶ瀬君を手放す事はしないのに」

「……えっと」

「月ヶ瀬君が大丈夫になるまで、ずっと待ち続ける自信、あるよ」


そう言って佐野さんは優しく微笑んだ。
佐野さんの言葉……それってつまり、告白、で良いんだよな?
いや、佐野さんがオレを好きだっていうのは先程からの話でわかるし、嬉しいし。
ちゃんと告白もしてくれて、オレがトラウマを克服するまで待っててくれるって言ってくれるのも嬉しい。
っていうかイケメンに告白されるってだけでテンション上がる!!
ぶわわっ!!、と一気に熱が上がり、茹で蛸並みの真っ赤な顔で、金魚の様に口をぱくぱくさせるだけのオレを見て、佐野さんはくすりと微笑みながら「可愛い反応」なんて呟いた。
いや、オレもここまで熱上がるとは思わなかったんです……恥ずかしさのあまり顔を掌で覆って俯いた。


「迷惑だったかな?」

「っ、いえ、それは全く……」

「今、付き合ってる人いる?」

「……フリーです……」

「今、好きな人はいる?」

「……好、きな人……」


……"好きな人"は、いない。
新しい環境元で目の保養しつつ、彼氏出来れば良いなとは思ってはいたが、今の所目の保養しか成せていない。
とは言っても関わっている人がまだ少ないって言うのもあるんだろうけど、恋人にしたい人っていうのはまだオレの中には誰もいない。
だから、佐野さんの告白を受けたって良い訳で。
佐野さんイケメンだし、猫かぶりでオンとオフのギャップはあるけど優しいし、オレの事気遣ってくれてるのがわかるし。
いざそういう事になっても佐野さんなら無理矢理に事を進める事はないだろう。
そういった安心感もある。……ある、んだけど……。


「えっと……オレ、佐野さんの事、良い人だとは思うし、好きですけど……、まだ良くわからなくって……」


好感はある。けど、佐野さんの気持ちに今すぐ答えなきゃという気持ちにはなれず、佐野さんからの告白の返事にイエスともノーともとれない曖昧な返事しか出せなかった。
その事が凄く不甲斐無くて、申し訳なくて頭を下げれば「良いよ」と佐野さんが言ってくれた。


「確かに、オレと月ヶ瀬君の立場の違いもあるし、接点を持つのもなかなかに難しいからね。早急すぎたオレも悪いし、月ヶ瀬君が気にする事はないよ」

「で、でも……」

「じゃあ、一つだけ。何時になっても構わないから、オレの気持ちに対して月ヶ瀬君の答えをちゃんと聞かせて欲しい」

「……」


「待ってるから」そう言う佐野さんは相変わらずの優しい笑みのままで。「大人だな」と、そんな事をぼんやりと考えた。
そうしてオレは佐野さんに「わかりました」と答えるので精一杯だった。


2016/10/9.



[*前へ][次へ#]

37/58ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!