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『向日葵の咲く頃には』
5


「あの夜は」と佐野さんが当時の事を考えているのだろう、遠くを見つめる様にしてぽつりと呟く。


「オレは初めて友人達に連れられてあの店に行ったんだけど、別にオレはゲイって訳ではないのになぁ、位にしか思ってなくてね。ぶっちゃけ興味がなかったから何時バックレてやろうかと思ってたんだ」

「そ、そうなんですか……(佐野さん、ゲイじゃないのか。そうなのか)」

「で。隙が出来たから抜けようとした時に、月ヶ瀬君が店に入って来てね」


「ふふふ」と思い出し笑いをする佐野さんに、可愛いなんて心の中で思って見とれていれば、オレの名前が出てきて、どきりと心臓を跳ねらせる。
三年程前の何時の夜の話をしているのだろうか……。


「どう見ても未成年の子供がどうどうと入ってくるもんだから驚いたよ。そのまま様子を見ていたら、月ヶ瀬君のあとから続いて男が入って来てね」

(……それ、確実にその時付き合ってた彼氏だな)

「店の奥に行って嬉しそうに「この人新しい彼氏!!」って。それはもう凄く嬉しそうに自慢しててね。可愛かったなぁ」


「花が綻ぶ笑顔でさぁ」なんて話す今の佐野さんの方が綻んでるよ!!花が!!可愛い!!
当時の様子を、オレを愛でる様に微笑みながら話す佐野さんの表情にきゅんきゅんしていれば、ふと真剣な眼差しに変わって首を傾げる。


「オレはその時の嬉しそうな月ヶ瀬君に一目惚れしてね。その時の彼氏が羨ましいなって、その瞬間思ったよ。オレもあの子に笑顔を向けて欲しい、オレの事見て欲しいって。ゲイでもないのに自分でもびっくりした」


そう話しながら佐野さんの視線がオレに向き直る。
真剣そのものでちょっと居た堪れないが、簡単には視線を外させてくれない。そんな強く、熱い視線だった。
どきどきと大きく鳴り響く心臓の音が耳に籠り、頬の熱がじわりと高まるのを感じていれば、佐野さんはオレに視線を合わせたまま続きを語った。


「でも月ヶ瀬君だけだった。他の男に目を向けてもなんの感情も起きない。だからオレは月ヶ瀬君限定のゲイなんだって納得して、それからちょくちょく店に顔出してたんだ」

「……で、も、話した事……」

「うん、ないね。だって君は何時も幸せそうに、楽しそうに笑っていたからね。それを邪魔したかった訳じゃないから。……まぁ、何回か通って会えない時もあったけど、会えたら会えたで一緒にいる男がちょくちょく違っていた事には驚いたかな」

「う"っ……」


い、痛い所突いてきますね、佐野さん……。
その頃は確かにとっかえひっかえのサイクルが少し早かった。
そりゃ、一応、中学生というお年頃な時期だし、恋愛や性に多感な時期でもある訳だし、付き合った相手は皆年上の大人ばっかりで、必然的にそういう事も求められる。
でもオレは性行為に関して抵抗あったから、その理由を掻い摘んで説明しても、暫くは良くても次第に性行為が出来ない事に相手が見切りをつけて去って行く。
それの繰り返しで、そんなオレの噂がちょっと広まった事もあった。
その噂を耳にして「それでも待つから良いよ」と言ってくれた人とも付き合ったけど、結局何時ものパターンに入ってしまい、だから付き合った人の数は、呆れられる程だと思う。
事情を知らないにしても、まさか佐野さんにとっかえひっかえの事実が知られていた事に、オレは少しだけ過去の自分の行いを悔やんだ。
や、今更悔やんだところで遅いんだけど。だって過去のオレは未来で佐野さんに会うなんて知る由もないんだからな。
少しばかり居た堪れなくて渇いた笑みが零れる。


「まぁ、いろいろと事情がありましてね……ハハハ……」

「その事情って、性行為出来ないってやつの事かな?」

「……噂、聞きました?」

「うん。少し気になってね。それで別れては付き合っての繰り返しだって」


……わぁ〜……、その通りの事実がバレてーら。
ひくりと口元が引き攣り、オレは気まずさマックスで視線を逸らした。
全くその通りの事実であって、今までにだって噂を耳にしてオレに近寄って来た人だっていたけど、こんなにも気まずくなるのは初めてだ。お、恐ろしい……。


2016/9/17.



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