『向日葵の咲く頃には』
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その後、そわそわしながらメニューの注文を済ませて数分後、運ばれた食事にごくりと喉を鳴らす。
飲み物も同じく持って来られ、オレの前にはジンジャーエールを、佐野さんの前には綺麗な水色をしたカクテルが置かれた。
佐野さんはオレに気を使ってアルコールを控えようとしていたが、折角のバーに来て飲めるのなら遠慮せずにと、そう言ってオレが勧めたのだ。
勿論、オレは飲みませんよ。通い慣れた『バー・オレンジ』のママさんに毎回言われてますから。
「未成年でお酒や煙草で損する事態が起きたらつまらないでしょう？」って。
全て運ばれてテーブルの彩りが賑やかになった時、ふと視線を感じてそちらへ向けば、料理を運んできてくれた店員さんと目が合った。
なんだろうと、そう思って首を傾げて見せれば「悪いな」と謝罪の言葉をかけられた。
「いや、こいつがお気に入りを連れてくるっつーもんだから、どんな奴かと思ってな。じっと見て悪かったな」
「い、いえ……」
「月ヶ瀬君、彼がオレの知り合いで、ここのオーナーだよ」
「そうなんですか。初めまして、未成年の入店ですが本当に大丈夫ですか？」
「大丈夫ではないだろうが、バレなきゃ大丈夫だ」
「君は気にすんな!!」と豪快に笑いながら言うオーナーさんに「バーの店主はどこもこんなんなのか……」と苦笑を漏らす。ママさんとこの人しか知らないけどさ。
「冷めない内にどうぞ」と言われて運ばれた料理を口に運べば、見た目通り美味しいものばかりだった。
めちゃくちゃ美味しい事を伝えればオーナーさんは嬉しそうに「そりゃ良かった!!」とにっかりと笑った。
会話をしながらそのまま食べ進めていくが、オーナーさんが一向にお店の方へ戻らない事に気付いたのは、食べ始めて三十分程経ってからだった。
というか、三十分も経ってから気付くとか遅すぎる……それ程ナチュラルに会話に参加しているオーナーさんが凄いのだろうか。
「あの、お店の方は大丈夫なんですか？」
「ん？あぁ、他の奴に任せてあるし大丈夫……と言いたい所だが流石に戻るかな。桂馬のお気に入り君の事も知れたし」
「あとは二人でごゆっくり〜♪」と退室するオーナーさんに、ぺこりとお辞儀をするオレとは別に、佐野さんはオーナーさんを追い出す様な仕草で見送っていた。
……オーナーさんの退室間際に言った"あとは二人でごゆっくり"という言葉が頭の中をぐるぐる回っている。
その言い方だとまるでお見合いみたいじゃないか。
「あとは若い二人で〜」とか言って退席する親ですか。
「ごめんね。あいつとは付き合いが長いからお互いにいろいろな事わかっちゃってる所があるから……」
「あ、いえ!!良い人ですね、オーナーさん」
「確かに良い奴だよ。バーを営んでるからか、いろいろと相談に乗っては良い答えをくれたりするし。月ヶ瀬君の事も話したりしてたんだ」
「オレの話、ですか？」
オレのなんの話をしたのだろうか。そう思って聞き返せば、こくりと頷かれる。
そうしてほんの少し視線が合っていれば、佐野さんの双眸がゆるりと細められ、まるで愛おしいものでも見ている様な感覚に思えた。
「転校生の書類を見て、添付されてた写真も見て、運命だと思ったんだよ」
「……運命、ですか？」
「この歳で、しかも未成年相手に何を言っているんだって感じだけどね。オレね、その書類で君に一目惚れした訳じゃないんだ」
「えっ、でも……？」
学園側には生徒一人一人の個人データの様な書類があるのだろう、オレのそれが転校前に既に学園側で所持していてもおかしくはない。転校手続き用に証明写真撮って提出したもん。
だからそれを見てオレを知ったと思うのが普通だろう。
初めて会った時だって"書類で見るのと実際に話すのは"、みたいな事言ってたし。
でもそれだと佐野さんが今言った事と矛盾している。
つまり、なんだ？書類で見たのが最初じゃないって事？
「……どっかでお会いしましたかね？」
「直接言葉を交わした事はないけどね。それに、オレが一方的に君を見ていたってだけだし」
「えっ、何時の話ですか？それ……」
「三年程前かな？因みにここじゃないバーで見かけたのが最初だったかな」
三年程前……オレ、中学二年の頃じゃないっすか。
しかもここじゃないバーって、確実にママさんの店ですね。全然気付かなかった……。
『バー・オレンジ』に行く時は、その時付き合ってた彼氏と一緒だったし、ママさんやサト、それにナオトともその頃からの付き合いだから一緒にいる事が多く、あまり他の人と触れ合う事は確かにしなかった。
だから、たとえ佐野さんが近くにいても気付かなかったのはしかたがないとは思うけど……なんで当時の自分はこんなイケメン視界に入んなかったんだ……!!
あ、今はそうじゃないだろって？はは、確かにそうですね。切り替えます。
2016/8/27.
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