『向日葵の咲く頃には』
2
一人浮かれていれば明らかに呆れられた視線を向けられて、羞恥心から「こほん」と咳払いをして落ち着きを取り戻す。
「と、兎に角!!オレ出かけるんだからそこどいてくれないか?」
「誰と飯食いに行くんだよ」
「う"……そ、それは言えない。けど、一條には関係ないだろ」
「…………」
「関係ない」と言った瞬間、一條の顔がイラついた様な顔付きに変わった。
いや、さっきからむすっとはしてたけど、それがはっきり顔に出たって感じだ。
……なんだ、なんでそんな顔するんだよ。っていうかさっきから思ってたんだけど、なんかこのやり取りっていうか、この空気―――……。
(……勘違い、しそうなんだけど……)
職権乱用してまで空き部屋に人連れ込んでSMプレイする様な奴だから、それは有り得ないとは思うけど、特に用もないのにここに来て、オレが出かけるの知って機嫌悪くさせてるっていうのは、そういう事なのではないだろうかと錯覚してしまう。
いや、でもないな。一條に限ってそれは。うん。
……別にね、残念がってないからね?用もないのに来たのはオレに会いに来たんじゃないのかなー?とか、佐野さんとのデートに行かせねぇよみたいな雰囲気だなーとか思ってないよ!!うん!!
思ってはいないんだけど……。
「―――……って、ああああ!!」
「なっ……んだよ、いきなり」
「こんな事してる場合じゃなかった!!遅刻する!!」
「あ、おいっ!!」
「出てく時、鍵よろしくなー!!」と去り際に一條に言ってオレは急いでエレベーターまで駆け抜ける。
それをぽかんと呆けた面で一條が見ていたが、今はそれに構っていられない。
佐野さんとの約束の時間に間に合わない!!
そんな理由を引っ提げてエレベーターに乗り込み、ばくばくと暴れる心臓を落ち着かせた。
あのまま一條といたらどうなってたか……オレの精神的な意味で。
一條にとってオレは、数あるオモチャの内の一人ってのが当て嵌まるんだろう。……あ、ドM生徒さん達をオモチャ扱い発言は失礼極まりないですねすいませんね。
なんとなく、始業式からのオレに対する扱いが他と違うような、そうでもないような感じで良くわからん。
いや、わかる程一條の事を知っている訳でもないんだけど。オレ少し前にここに入ったばっかりだし。
それを考えるとオレは一條の事知らないんだよなー。クラスも違うし。
あぁ、でもそれは他の人にも言える事なんだけど。
「……って、さっきっから一條の事ばっかりだな、オレ……」
「はぁ」と一つ溜め息を零す。
これから佐野さんとご飯なんだから切り替えないと。
学園を出て急いで待ち合わせ場所の駅に向かう。
一條と話をしていたから遅刻かと思ったけど、ギリギリ間に合った。時間にはね。
「そんなに慌てて来なくても大丈夫だよ?月ヶ瀬君」
「ゼェー……ゼェー……ッ。す、すみませ……」
時間には間に合ったけど、佐野さんは既に来ていて、遅くなった事を謝ろうとしたけど走って来たから息が整うまでその言葉は言えなかった。
2016/7/18.
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