『向日葵の咲く頃には』
日曜デート
それから数日。
その間に佐野さんから約束通り日曜の詳細が書かれたメールが届き、テンションがおかしい程浮かれた。
おかしすぎて宇高に「ついにイカれたんか？」と、それはもう憐れんだ目で見ながら告げられた位だ。
まぁ、それは良いとして。
ご飯を食べに行く約束だった為、メールの内容は「十七時に駅前に」ただそれだけの簡潔なものだった。
冷たい様に感じ取れるが、余計な内容もなく大人らしい文面に、前に付き合った事のある大人達も確かにさっぱりとしたメールのやり取りもあったが、それとはまた違う雰囲気で、ちょっとどきどきした。
多分、絵文字とか顔文字とか一切ないからだろう。
「思えば過去に付き合った事のある人達は年上ばっかだったなー」なんて呑気に考えながら着ていく服を選んでいく。
「……大人が多かったのはオレが子供だからなんだけどな。あのバーには未成年そんなにいないし」
てか同年代で同性愛者を探すのは意外と難しい話だ。
小学校や中学校、転校前の学校はどれも共学校だったから余計に同性愛者がいるという望みは薄い。
いたとしても隠されて見落とす場合が多いだろう。てかオレだって一応周りには内緒にしてたし。
だから中学の時にあのバーに連れてってもらって、少し気が楽になったのも事実だ。
まぁ、この学園は同性愛者が沢山いるうえにわりとオープンだから探すのは楽だし、選び放題だし―――あ、今のはちょっと失礼な考えだったかな？
でもそんなオレにとって宝島とも言えるこの学園で目の保養をしつつ、新しい恋人探しを楽しもうと思う。
なんてったってここの生徒はレベルが高い!!
格好良い人、美形、イケメンから可愛い子に美人さんとより取り見取り!!
あー、でも岸谷と宇高にはフラれちゃったしなー。
一緒にいる時間の多い二人は駄目だったけど、他にも先輩、後輩に同輩といっぱいいるもんね!!
さっき失礼な事を考えた事に反省したけど、一瞬でそれは吹っ飛んでいった。
「っと、そろそろ本格的に準備しないと遅刻する!!」
オレは慌てて選んだ服に着替えて、鏡の前で身嗜みの確認を念入りにこなし「いざ出陣!!」という勢いで玄関のドアを開けた。
開けた瞬間の光景に一瞬でドアを閉めた。
「おい、何閉めてんだてめぇはよぉ……!!」
「めっちゃびっくりした!!悪いか!!」
閉めようとしたが、寸での所で足を隙間に差し込まれ、ドアにも手をかけられてしまい、閉じられる事はなかった。
っていうかまじなんでお前ここにしるし!!
逆ギレも良いとこなオレの態度に舌打ちをしたのが誰かというと、そう、一條だ。
玄関のドアを開けたら、玄関の横に立って鍵の役割も果たす学生証を確認画面に翳そうとしている一條と目がばっちり合ったのだ。
だからびっくりしてドア閉めるっていう行動は間違ってはいないとオレは思うんだけど。
……ってか一條に構ってると佐野さんとの待ち合わせに遅れるんだけど……!!
「あの、職権乱用してまで一体なんの御用がおありですか、生徒会長様」
「特に用はねぇな」
「んじゃなんで職権乱用してまで鍵開けようとしてた?!」
「職権乱用、職権乱用ってうるせぇな、いちいち」
いや、うるさくねぇよ!!つか事実を指摘してるだけだろ?!
そう文句を言おうとしたけど、その前に一條が無理矢理ドアを開けて、出来た隙間からするりと侵入して来た。
……いやいや、帰ろうよ?!
「あの、勝手に入らないでくんない？」
「……何お前、どっか出かけんの？」
「聞けよ。……はぁ、そうだよ。だから出てって欲しいんだけど」
オレの話を無視して一條はじっとオレを見てから質問してきた。
それに愛想悪く返事をすれば気にした風もなく、一條は頭の天辺から爪先までじろじろと見てきた。
失礼な奴だ。見られて恥ずかしいじゃねぇか。
「な、なに……」
「こんな時間に何処行くんだよ」
「は？何処って……何処でも良いじゃん」
「随分気合入ってんな。なんだ、デートにでも行くのか」
「で……ッ?!で、ででデートなんて!!そんなんじゃ……!!ご飯行くだけだって!!」
一條のデート発言に勢い良く否定したけど、内心自分でも「これってデートじゃん!!」って思っていたから必然的に顔に熱が集中して、自分でもわかる程顔を真っ赤に染め上げた。
頬を両手で覆って隠してみたが、見られたあとにとった行動な為、特に意味をなさなかったけど。
まぁ、一條がデートかどうか聞いてくるのも仕方はないか。
そう思われてもおかしくない格好をしているのだから―――流石にスーツとかそんなんではないけどさ―――まず先に思い当たるのは、やっぱりデートなのだろう。
自分でも思っていたとはいえ、他人にもそう思われて言葉にされると一段と意識してしまう。
だって佐野さんに「覚悟しとけよ」って言われちゃってるしー!!
2016/6/27.
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