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『向日葵の咲く頃には』
2


今もなおグラウンドでは騎馬戦参加者による話し合いが進められていて、オレは栗山先輩とグラウンドを交互に見遣って一人慌てた。
オレが慌てたって意味はないんだけどさ。


「でも当日に先輩が困るかもしれないし……」

「その時はその時だよぉ」

「そんな呑気な……」


この人、本当にどうでも良さそうに答えるなぁ……。
そりゃ、騎馬戦は個人競技ではないから、いざとなれば周りに合わせて動けば問題ないだろうけどさ。
でも動きはやっつけで合わせられても、競技の最中に起こるトラブル等には今から心構えしてても問題はない訳で。
騎馬戦だもん。怪我しない保証はないしね。


「やっぱり集まり行った方が良いですよ。いろいろ話し合ってるみたいですし」


外を改めて見れば、数人の教師陣が組み合って動きながら参加者達に何かを説明している。
これはやっぱり参加しておいて損はない様な話をしている気がする。
だからオレは栗山先輩の袖を掴んで、窓の外に視線を投げている栗山先輩の視線をオレの方へ向けさせた。



「密会デート中だよ?」

「密会デートは何時でも出来ますが騎馬戦参加者の集まりは今日だけですよ?」

「それってまた密会デートしてくれるって事?」

「オレじゃなくても先輩なら誰とでも出来るでしょ、密会デート」


ぐいぐいと栗山先輩の袖を引っ張りながら教室のドアまで向かう際に、先輩からの確認を取る様な質問に対し、オレは素っ気なく返事を返した。
実際、宇高の話じゃ栗山先輩は役員でなくても親衛隊の規模は大きいらしいし、それに一般生徒達の耳に当然の様に届いているヤリチンだという話。
ならば先輩と密会デートしたいと思う生徒は大勢いるだろうから。そう思って答えたのだ。
話しながら進めていた足が、後ろに引っ張られる様な感じにぴたりと進めなくなった。
不思議に思いながら後ろを振り返れば、先輩が足を止めた事によって進めなくなったのだと気付いた。
が、それ以外にも気付いた事がある。栗山先輩は俯きながら黙っていた。


「……先輩?」

「……確かにしてくれる子は沢山いるだろうけど」


「あ、やっぱり沢山いるんですね」なんて場違いにも心の中で呟いていれば、先輩の袖を掴んでいたオレの手を、反対の空いている手で先輩は掴み直してオレの手は袖から外された。
ちょっと失礼すぎたかなと少し焦ったが、そんなオレを余所に栗山先輩は掴んだオレの手を思いきり引っ張った。
その勢いでオレの向きがぐるりと変わり、よろける足元を踏ん張ろうと力を込めた所で、オレは栗山先輩の懐に飛び込んだ。
いや、この場合"飛び込んだ"という表現はあっているのだろうか?
そんな事を考えていれば、栗山先輩の両腕がオレの腰に回された。


「あ、の?せんぱ……」

「オレはさぁ」


栗山先輩に声をかければ、オレの声に被せる様に栗山先輩が話し出した。
近くに感じる栗山先輩の視線と息遣いに、どきどきと熱が上昇していく中、それでも栗山先輩から視線を逸らす事が出来ない。


「密会デートするなら慎君とが良いなぁ……」

「せん……」

「慎君、他の子となんか違ってて気に入っちゃったし」

「えっ、あ、そ、そそそっすか!!」


近かった視線が更に寄せられて、頬擦りをする様にぎゅっと抱き締められた。
全身で感じる栗山先輩の体温に更に熱が上がり、オレも腕を回した方が良いのだろうかと、そう思って腕を伸ばした時……。


―――……もにゅっ。


「んぎゃっ?!」


人の気配のない廊下。二人きりの教室。込められる腕の力。近い熱にどきどき高鳴る心臓……雰囲気は最高に良いものだったのに、栗山先輩はこのタイミングで思いきりオレの尻を揉んできた……いや、現在進行形で揉んでる。
おかげで変な声を上げてしまった……恥ずかしいっ!!


「せ、せせせ……?!」

「慎君、お尻柔らかいねぇ。直接手ぇ突っ込んで触って良い?」

「んにゃぁぁぁあああ!!よ、よよ良くないです……!!」


全力抵抗してるのに、栗山先輩は余裕の表情でなおも尻を揉み扱いてくる。
その手付きが、流石はヤリチンだと納得してしまう程のやり慣れ感があった。
そんな残念な流れを断ち切ってオレは慌てて栗山先輩に断りを入れてその場をダッシュで去ったのだった。


2016/5/26.



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