『向日葵の咲く頃には』
放課後デート
そんなやり取りをしながらも栗山先輩がオレの傍に寄り、ほんの少し立ち話をした。
周りに生徒がいなくて、栗山先輩と一緒にいる所を見られなくて良かったと少しだけ安堵する。
数日前には、大勢の前で間宮先輩といろいろとあったから、ほんの少し視線が痛いのだ。
「ねぇ、慎君。立ち話は疲れるしさ、どっか入ってお話しようよ」
「その言い方、ナンパされてる気分になりますね」
「あはは。じゃあ、放課後密会デートって事で」
冗談を言う様に楽しげに言う栗山先輩ではあるが、引かれる手の強さからは冗談という雰囲気ではなかった。
確かに立ち話を続けていては何時かは座りたくもなるだろうし、今はいなくてもここに戻って来る生徒がいてもおかしくはない。
引かれる手をそのままにオレは栗山先輩の向かう場所まで大人しく付いて行く事にした。
「はい、どうぞ〜」
「……って、結局一階上がって三年の教室っすか」
「あらら。ここじゃ不満?まぁ、確かに廊下から丸見えだもんねぇ」
「あ、いや、その心配はしてません、はい」
「壁部屋じゃなくてごめんね?」と別に栗山先輩が悪い訳ではないのに謝罪の言葉を紡ぐ先輩に、オレは左右に首を振って応える。
そして、オレの言いたい事と栗山先輩の考えがすれ違っているという事に対しては即答で返事を返した。
オレは帰ろうとして下へ降りて行っていたのに、また上るのかというニュアンスで言ったのだが、栗山先輩は「ヤったら目立っちゃうね」のニュアンスだ。全く違う。
……オレとしても凄く残念なんですがね。こればかりはどうしようもない。
「慎君はさぁ〜、体育祭は何やるの?」
「オレはバスケと借り物です」
「二種目だけ?初めてなんだからもっといっぱい参加したら良いのにぃ」
「……オレ運動オンチなんで丁度良いです」
「ふーん。オレはねぇ、騎馬戦だけぇ」
「先輩だってオレとそう変わんないじゃないっすか!!」
「オレはさぁ〜、運動オンチじゃないけどいっぱい出たい訳じゃないからねぇ」
「あははは」なんて笑う栗山先輩に「あ〜わかる〜」なんて、理由は違えど気持ちは同じようで、オレは笑って返す。
ふと窓の外を眺めればグラウンドで部活動に励む生徒や体育祭の集まりの姿があった。
三年の教室からグラウンドにいる岸谷を探そうとその集団を眺めるが、流石に人がいっぱいでなかなかに見付からない。
岸谷の騎馬戦とリレー楽しみだなぁ、なんて思いながら眺めていれば、ふと違和感を感じて栗山先輩の方に顔を向けた。
「……先輩が出る種目……騎馬戦って言いましたよね?」
「うん、そうだよぉ?」
「……今日の放課後、騎馬戦に参加する人はグラウンドに集合になってる筈ですけど……?」
「あー……そうだったかも?慎君、騎馬戦出ないのに良く知ってるねぇ」
「友達が騎馬戦出るんです……って、そうじゃなくって!!今グラウンド集合してるんですよ?!行かないと!!」
「えー?面倒だし……、良いんじゃない?」
「えええー……」
そう言って窓からグラウンドを見る栗山先輩に「それで良いのか先輩……」と心の中で突っ込んだ。
2016/5/26.
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