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『向日葵の咲く頃には』
4


とりあえず現実を無視してても仕方ない訳だし、起こってしまっている現状を受けとめなくてはと、そう思ってずかずかと共同スペースへと足を運び。


「おいこら一條!!お前また勝手に……」

「おや、月ヶ瀬君。おかえりなさい」

「ッ、キャー!!さ、佐野さん?!なんでここに?!」


共同スペースに辿り着いた途端にオレはそこにいる、もしくは空いている部屋の中にいるであろう一條に向かって文句を言ってやろうと声を荒げたが、共同スペースにいたのは一條でもなく、まさかの佐野さんだった。
びっくりしすぎて「キャー!!」とか叫んじゃったよ!!恥ずかしい!!
真っ赤になって慌てるオレを見て佐野さんは楽しげにくすくすと微笑んでいる……イケメンで格好良い!!


「す、すみません!!佐野さんだとは思わず大声出して……」

「構いませんよ。驚かせてしまったのはこちらですしね。……それより今、"一條"と聞こえましたが……」

「あ、いや、えっと……なんかここ、オレが来る前から一條……あ、生徒会長が良く来てたみたいで。初日からいろいろとあったものでつい……」

「そうだったんですか」


一條がこの部屋で以前から例の事で使用しているという事は伏せつつ、ここには来ている事を佐野さんに話せば、佐野さんは困った様な表情で「生徒会顧問に注意を促す様言わないといけませんね」と溜め息を吐いた。
そんな溜め息を吐く姿もイケメン……というか、綺麗系でうっとりしながら様子を窺っていれば、ふと佐野さんと視線が重なり、ふわりと優しく微笑まれた。
格好良くて綺麗系のイケメンで眼福すぎて涙が出そうだよオレ……まぁ、涙は耐えたから出なかったけど。
それにしても、何故 佐野さんがオレの部屋にいるのかを改めて疑問に思い、オレは佐野さんに再び聞いてみた。


「ところで佐野さんは、どうしてここに?オレに何か用事でも?」

「ええ。もうご帰宅されていると思って来たのですが、まだみたいでしたので勝手に上がらせて頂いてました。すみません、お邪魔して」

「いえいえそんな!!オレの方こそ遅くなってすみませんでした!!」


慌てて謝罪したけど、オレの謝罪は何に対しての謝罪になるのか全くわからないが、一応 佐野さんとはメアド交換してある訳だし、連絡入れてくれれば急いで帰ってきたのに……。
因みに後々になって「無人の部屋に上り込んでいた事は一條と同じじゃね?」と気付いたけど、この時はそんな事一切気付かなかった。
佐野さんの元まで近寄れば、香水の香りが鼻腔を擽る。


「用事、と言っても急なものではないのですが……今度の日曜日、もしお暇でしたら一緒に食事など如何ですか?」

「えっ?!ご飯ですか?」

「都合が良ければ、なんですが……」

「ぜ、ぜぜん!!大丈夫です!!予定も特にないんで超暇してます!!」


眉を下げて尋ねてくる佐野さんが可愛く見えてどきどきしながら返事をすれば、佐野さんはぱっと表情を明るくした。


「良かった。突然ですし、断られるのを覚悟していたので安心しました」

「いや、いやいやいや!!びっくりはしましたけど、嬉しいです!!ありがとうございます!!」


佐野さんみたいな綺麗なイケメンさんとご飯出来るなんて……なんてラッキーなんだ、オレ!!
嬉しすぎて凄くテンション上がって、佐野さんにも伝わっているのだろう、佐野さんくすくす笑ってる!!超恥ずかしい!!
「詳細は後程」と、そう言って佐野さんは玄関に向かって歩き出した為、慌てて荷物を床に置いてお見送りする為に後に着いた。
そういえばご飯に誘って貰ったのは嬉しいけど、秘書さんっていち生徒にそんな事、普通はしない……よな?
なんで佐野さんはわざわざオレを選んだんだろうか。
高校生のオレとご飯するより、気の抜けた大人同士の方が何かと楽だろうに……。
ふと疑問に思った事をオレは佐野さんに尋ねてみた。


「あの、佐野さん?」

「はい?なんでしょうか」

「どうしてオレを誘ってくれたんですか?オレなんかより理事長とかの方が……」

「理事長や他の方々とは仕事で食事会はしています。なので、今回は完全にプライベートのお誘いですよ」


そう言って佐野さんはオレの手を取ったと思えばそのままゆっくり近付いてきて、オレは壁に背中を預ける体勢にされた。
身長差で必然的に佐野さんを見上げる形となり、影の落とされた双眸に捕食者の色が見え、ぞくりと背筋を震わせた。
一瞬にして佐野さんの纏う空気が変わったのが、会った回数の少ないオレでもわかる。
双眸が細められ鼻先がくっ付きそうな程、顔を寄せられれば、心臓が早足になり耳に響いてうるさい。


「さ、の……さ……」

「プライベートに誘うのは月ヶ瀬君だからだよ。……言っただろ?"得物は簡単には手放さない"って」

「ッ……」


確かにそんな事言われましたね……しかもその後額に軽くキスをされた。
その事を思い出し、ぐわわっと熱が上がったオレの顔を見て、佐野さんは妖艶な笑みを向けて、低く熱っぽい声音を耳元で発した。


「"次会う時は覚悟しておけ"って言ったけど、今日はこれだけ」


耳元で囁かれた声がぞくりと腰に響いて、息を詰まらせそうになった所に佐野さんが顔を近付けてきて、そのまま唇を塞がれた。
突然の事にびっくりして佐野さんの腕を押し返そうと力を込めたけど、びくともしない身体にそのままされるがままに角度を変えてそれを受け止める。
触れてくる佐野さんの唇が、オレの唇に軽く吸いつく様に舐め上げ、びくりと大げさな位肩を跳ね上がさせる。
ちゅっというリップ音を発しながら離れていく唇の温もりに、どきどきしながら佐野さんを見上げれば、佐野さんはまるで愛おしいものを見る様な目で、微笑みながら言った。


「日曜日こそは覚悟、しておけよ?」


開いた口が震えて声が出ない。
佐野さんはオレの頭を撫でてから部屋を出て行った。
佐野さんが出て行ったあと、オレはずるずると壁伝いにしゃがみ込み、感触の残る唇を指で撫で、それから膝を抱える様に顔を伏せた。
顔に集まる熱も、唇に残る感触も、耳に響いた声音も、全部がオレの心臓を騒ぎ立て「はぁ……」と熱の籠った溜め息を吐いた。
……オレ、日曜日、大丈夫なのか……?


2015/12/30.



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あきゅろす。
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