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『向日葵の咲く頃には』
3


視線が合った気がして、どきりと心臓が高鳴る。
それは仕方がない。転校初日の放課後にあんな出来事があったのだから。
あれから日は経っているとはいえ、その日以降、一條との接触は特になく―――クラスが違うとか役員の仕事で生徒会室にいるとかなんとかで―――こうして対面するのは実は久し振りなのだ。
だからといって、意識しているとか気付かれたくないから、オレは敢えて視線を逸らした。
一條がそれに気付いたのか、少し眉を顰めたが間宮先輩の方へ視線を戻し、先輩の首根っこを掴んで引き摺る様に踵を返した。


「役員の仕事でお前に用があったから丁度良い。このままオレと来い」

「えっ?!一條と一緒にか?行く行く!!どこまでも付いて行くよ!!あと出来ればもっと強めに引き摺ってくれて構わない!!」

「…………キモい」


目をきらきら、頬を朱色に染め「はぁはぁ……」と息を荒くしながら間宮先輩は一條に懇願するが、その瞬間 一條は引き攣った表情で間宮先輩の首根っこを放し、そのまま早足で立ち去る。
それを間宮先輩が嬉しそうに追いかけて行き、姿が見えなくなってから周りの生徒達が「はぁ〜……」と大きな溜め息を吐いた。


「一條のおかげでなんとか助かったね……」

「まさか一條の奴に感謝する日が来るなんて……いやや」

「……あの先輩、またオレん所来ると思う?」

「「思う」」

「…………そっかぁ〜……」


間宮先輩の質問に否定の答えはしたけども、それで先輩が納得したという返事は貰ってはいない。
むしろ解決する事もなく、有耶無耶なままに終わった会話に、恐らく続きが訪れるであろう未来を想像して、オレは若干涙目で肩を落とす。
岸谷がオレの背中を優しく撫でて励ましてくれて、宇高も肩をぽんぽんと叩いて「元気出しぃ」と声をかけてくれた……ありがとう二人とも。
そんな二人の優しさにオレは涙腺崩壊寸前だったけど、二人が間宮先輩に関わりたくなくて助けては貰えそうにない事を、二人の表情を見て悟り、涙が引っ込んでいった。
しかし、あの一條にあそこまで嫌そうな顔をさせるなんて……間宮先輩、恐るべし……関わりたくないなぁ……。
重い溜め息を一つ吐いてからオレ達は次の授業の為、改めて移動を開始した。






その後の休み時間や昼休み等、間宮先輩がまた来るんじゃないかと身構えていたけど杞憂に終わり、放課後を迎える。
今日は岸谷は体育館の点検で部活が休みで、宇高も顧問の先生の都合で部活が休みらしく、テスト期間振りに一緒に帰る事になった。
結局部活に入っていないオレは、何時もは一人で寮に帰っているが、やはり誰かと一緒に帰ったりする方が楽しい。
オレ達は他愛もない会話をしてそれぞれの部屋まで戻って来た。


「じゃあ、また夕飯の時に」

「おーう、またなー」

「ばいばい、マコっちゃん」


手を振る宇高にお返しにとオレも手を振って応える。
二人が隣の部屋へと姿を消したのを見届けてから、オレも自分の部屋の鍵を開けるべくカードを差し込む。
ぴっという機械音を聞いてドアノブを掴むがドアが開かない。


「……?」


不思議に思って数回がちゃがちゃと動かすが、それでもドアは開く様子がなく、改めてカードを差し込んでから再び動かせば、今度はすんなりとドアは開いた。


「……オレ、朝鍵し忘れたっけ……?」


今朝の事とはいえ記憶がぼんやりで、施錠したかどうかはっきりしないが、流石に実家でも鍵をかける習慣は身に付いているから、ここにきてそれを忘れる事はないと思う。
じゃあ、なんで鍵を開けたと思ったら閉まったのか。


「………………まさかな……」


一瞬、思い当たった事に顔を引き攣らせてドアを大きく開けて足元を見れば、そこには見慣れない靴が一足、綺麗に揃えられて置いてあった。


「…………またかよ……ッ!!」


職権乱用の不法侵入で訴えらんねぇかな、あいつ!!
つーかなんで今回もオレより先に部屋にいんだよ……。
オレは怒れば良いのか、うんざりすれば良いのか、はたまた喜べば良いのかわからず、その場に膝を着いた。


2015/12/30.



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あきゅろす。
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