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『向日葵の咲く頃には』
5


共有スペースに戻れば、相変わらず我が物顔でソファに深く座って寛いでいる会長様の姿が。
しかも徐に動き出したと思ったらテレビの電源を点けやがった。
本気で帰る気配のない会長様に呆れて、オレは買ってきたジュースを飲もうと缶をテーブルに置けば、その音に気付いた会長様がこっちを向く。


「オレも飲む」

「……いや一本しか買ってきてないんですけど」

「それでいいから」

「……えー……」


なんなのそのオレ様な態度……生徒会長だからってなんでも許されると思うなよ!!半分こでよろしいですかねッ!!
オレはキッチンから元々この部屋に置いてあったコップを取り出して、350mlのジュースを半分こして会長様のいるソファまで行き、コップを差し出せば相手は無言で受け取った。


「……甘ぇな……」

「ジュースですから」

「次買う時はコーヒーを買え」

「いやいや何普通に次を要求してるんですか。次なんてないですよ」

「……お前、なんで敬語?タメなんだから普通に話せ」

「(タメだったのか)……じゃあ、そうする」


会長様――― 一條が同学年だったという事実を知り、凄いなと感心していれば、一條はオレの方をじっと見つめてきた。
その視線の意味がわからず、でもその真っ直ぐ向けられている視線にどきどきしながら「何?」と尋ねる。


「いや。今朝振りだな、と思って」

「今朝振りって……会ってもないし、喋ってもないだろ」

「目が合っただろ」

「……目……」


そこで今日の始業式の時の事を思い出す。
確かに一條は挨拶の時、誰かを探していた仕草を見せていたし、誰かに向けて合図みたいなのを送っていた。
オレのいた辺りに向けられていたそれは、けれど誰に向けてしていたのかまではわからなかったから、まさかと思う事しか出来なかったのだが、今本人の口から発せられた事によってそれが確かなものになった。


「……っ、あれ、オレにやってたのかよ……」

「お前以外いねぇだろ」

「いや、知らねぇし……」


さらりと、さも当たり前だという様に告げられた事にオレは再び鼓動を速める。
確かに目は合ったかもしれないけれど、でもそれはお互い見ていた先が偶然重なってそう見えただけだという事だって有り得たのに、それを否定されたうえに更にオレ以外は視界に入ってませんよみたいな言い方されたら、そりゃあ高揚感とか半端ないですよ。
その行動に一体なんの意味が込められているのかは知らないけれど、それでも特別感があってちょっと良い気になってしまう。
少し落ち着こうと顔に集まる熱を気にしながら缶ジュースを傾け、喉を潤した。
冷たい筈のそれは、あまり冷たさを感じる事が出来なかった。


「おい」

「ん?―――ッ、うわ?!」


徐に呼ばれて返事をしながら一條の方へ視線を向ければ、何時の間にかオレの傍にまで近寄って来ていた一條がオレの肩を押して、そのままソファに押し倒された。
その際に手に持っていた缶ジュースは、倒される直前にオレの手からするりと奪い取られ、零す事はなかった。
……その流れる様な動作はなんなの格好良すぎんだろチクショー……。


「……てか、あの、……え?……あの?」

「顔真っ赤。テンパりすぎじゃね?」

「いや、いやいやいや!!この状況じゃテンパるだろ?!普通!!」

「でもこの状況嬉しいんだろ?」

「…………や、あの、えと……」


図星を付かれてうっかり反応が少し遅れてしまった。
そのうえ、一條の言う通り顔は真っ赤だし、心臓はばくばく鳴っててうるさいしで、否定の言葉が挙動不審になってしまう。
この状況への緊張と期待と焦りで落ち着きなく視線を彷徨わせていれば、頭上からくすりと小さく笑う気配を感じてそちらに視線を戻せば、優しげな、でも悪戯が成功して喜ぶ子供の様な、そんな笑みを晒す一條が真っ直ぐオレを見下ろしていた。
その表情で更に心臓は高鳴り、顔に集まる熱の量が増す。
目の前の男はどれだけオレの心臓を殺しにかかって来るんだ……くっそー……イケメンめ!!


「あの、ほんとマジ勘弁してください……」

「嬉しいなら嬉しいって素直に言えよ。お前オレの部屋では自分がゲイだってカミングアウトしてたじゃねぇか」

「……言った?え、オレ言っちゃってた?!」

「ほぼ勢いでだけどな。そん時みたいに素直になれよ。そうすればオレだって優しくしてやるし」


そう言ってオレの頬に片手を滑らせ、そのまま顎に添えられ、親指は下唇をなぞったりぷにぷにと押したりと遊ぶ様に触れてくる。
顎に添えられた残りの指は、まるで猫にするかの様にこしょこしょと擽る。
その間も一條の眼鏡越しの綺麗な双眸は優しく細められたまま。
こんな状況にも関わらず「そういえば」とオレはある事に気付く。
それは、入寮日にこの部屋で一條は生徒一人と、それはもうイチャイチャとは言い難いプレイ―――双方にとってはそういう意味になるかもだけど―――で相手を思いっきり叩いていた。
俗に言うSMプレイの様子を目の前で目撃したうえに、その横暴な態度で荷物運びをさせられ、ついて行った先で壁に押し付けられたりした。
そんな一方的なドSっぷりのこいつにしては、この部屋での態度が不思議な程優しすぎる。
本人も「優しくする」と宣言したが既に優しい態度はどうしたというのだろうか。


2015/11/13.



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あきゅろす。
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