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『向日葵の咲く頃には』
3


始業式が始まって三十分程。ぶっちゃけオレは既に飽きてきている。
始業式とか終業式とか……、そういう式典はどうしてこうも長くて眠気がくるものなのか。
何度目かの欠伸をかみ殺してきたが、ついに耐えられず「ふぁ……」と、どうどうとしてしまった。
いけねと思い口を閉じながら周りを見るが、誰かに見られていた訳ではない様で、一安心。
丁度今、表彰されていた生徒が檀上を降りて、理事長も壇上から降り、司会の人が進行を進めて行った。


「続きまして生徒会長からの挨拶です」


司会の人がそう言った瞬間、あんなに静かだった体育館に「うおぉぉおお!!」とか「きゃああああ!!」と地鳴りが響く程騒がしくなった。
何?!何が起きたんすか?!皆どうしちゃったの?!え、いきなり?え?え?……ってかうるさ……ッ!!
いきなりの事で周りを見回して見れば、皆興奮状態で檀上を見つめているからオレも壇上へ視線を向ければ、目の前の光景にぴしりと身体が硬直した。


「ここにいる全員、進級おめでとう。まぁ、とりあえず面倒くせぇ問題さえ起こさなきゃ何時も通りで構わない」


そんなてきとうな一言だけ告げる生徒会長に対して周りの生徒達は「格好良いー!!」とか「是非とも罰をくださーい!!」とかそんな事を言っている。
「生徒会長の挨拶としてどうなのこれ……」とか思ってるのは、ここら一帯ではどうやらオレだけの様だ……嘘だろ。
しかもその生徒会長は言葉を続ける事もなくじっと何かを探す様に全体を見渡している。
なんだろうと不思議に思っていれば、ふと目が合った気がして心臓がどきりと跳ねた。
いやまさか……現に近くの生徒も「今こっち見た!!」とか言っているし、目が合ったのは気のせいだよな?
そう自分に言い聞かせていれば、不意に生徒会長は手を前に突出し、そのまま手を銃の様な形にし、その手の銃でいう銃口の先はやはりオレの方に向いている気がしてならなかった。
周りがきゃあきゃあと騒がしい。
まさかそんなと思っていながらも、どくどくと脈打つ心臓は周りに負けない位、うるさく鳴り響く。
生徒会長は、銃口で示す指先をそのままくいっと上に揺らす。
それはまさに銃弾を打たれた様なそれで。
その瞬間、周りの騒音は半端なかったし中にはその場に倒れ込む奴もいたが、オレはそれを気にしない程檀上の人物を見つめていた。
壇上にいる生徒会長――― 一條 雅は、その綺麗な顔でにやりと笑ったのだ。
それはまるで得物を見付けた肉食獣が悦びを表しているかの様で、オレは全身に熱を帯びるのを感じながらもその姿に魅入ってしまった。


(………ッ、挨拶とか変なのに……格好良い。やばい……)


どきどきとうるさい心臓が耳に響いて恥ずかしくて、周りに気付かれない様にオレは俯いた。
いや違う絶対違うオレじゃないオレにじゃない断じて違う!!
パニックになる思考を落ち着かせようと試みるが、どうやら満足した生徒会長がそこから動いたらしく、また周りが騒がしくなって、落ち着きたいのに落ち着けそうになかった。


(……いやお前らの気持ちわからなくもないよ格好良いもんな、イケメン眼鏡男子……)


「はぁ」と溜め息を吐いたが、それが思った以上に熱の籠ったものだと自分で気付いてそれにまた溜め息を零した。
それから数十分後に始業式は閉会となって、生徒が順番に体育館を出て行く。
順番がまだ来ない生徒達は、空くまで近くの人達と喋って時間を潰していて、オレの元にも岸谷と宇高がやった来た。


「一條の挨拶は相変わらずだったね」

「せやな。周りも騒がしい……って、マコっちゃん顔赤いで?どないしたん?」

「天使様、オレはもうなんというか……」

「え?え?何?」

「ちょ……何淳ちゃんに抱き付いとんねん。離しぃや」


オレの元に来た天使もとい岸谷にオレは抱き付いた。
いやもう本当どうにかしなきゃじゃん。
会長の挨拶終わったあともずっと顔熱いとか、超恥ずかしいじゃん。
隠したくて抱き付いたけど、宇高にばしばしと背中叩かれまくって痛いから渋々離れた。


「そういえばなんか一條、挨拶の最後こっち指差してたよね?」

「なんやマコっちゃんの方差しとった様にも見えたで」

「え"っ。……気のせいじゃね?オレの周りの誰かじゃね?」

「……ならなんでマコっちゃんまた顔赤いねん。茹ダコみたいやで?」

「うはは気のせいじゃね?!」

「いや、本当赤いよ?大丈夫?」

「………マコっちゃん、会長に惚れたん?」

「は……はぁぁぁああ?!そ、そんな訳ないじゃん!!初見から格好良いとか思ってないし!!」

「……思っとったんかい」

「あー……月ヶ瀬、落ちちゃったのかぁ……」

「ちょ、誤解です。オレはまだ完全に落ちてません。ただ惚れっぽいだけです」

「自白しとるでマコっちゃん」

「あ"ッ……」


慌てて答えるものの、ついうっかり口が滑っていらん事も喋ってしまった。
岸谷は苦笑して宇高は残念な人を見る様な視線を寄越す。
別にそっち系の人が多いと認識されているこの学園でなら別にバレても大丈夫だろうけど、それでも出会ってまだ三日程でバラすつもりもなかったので、ちょっと埋まりたい気分になった。



2015/8/15.


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