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『向日葵の咲く頃には』
2


須藤先生が入った時の様にわいわいするのではなく、ひそひそと小声が行きかう中、緊張と気まずさからぎこちない足取りになってしまった。
須藤先生が黒板にオレの名前を書いて改めて生徒達に向き合う。


「転校生の月ヶ瀬 慎クンだ。皆仲良くするんだぞー。はい月ヶ瀬、一言」

「えっ、あ、えっと……。初めまして、月ヶ瀬です。宜しくお願いします」


簡単な挨拶にぺこりとお辞儀をすれば、ぱちぱちと拍手が送られた。
あぁ、これがエスカレーター式に転校するという事なのか。なんか不安になってきた。
そんな不安の中、教室を見渡せば岸谷と宇高を見付けた。
岸谷は手を振ってくれて、宇高も小さくピースサインを向けてくれた。
てかピースって……可愛いなチクショー……和む。


「んじゃ月ヶ瀬の席はこの列の一番後ろな。視力とか問題ねぇか?」

「多分平気かと」

「うし。じゃあ早速席に着け」


促されてオレは指定された窓側から三列目の一番後ろの席に向かう。
その途中「宜しくねー」とか声をかけて貰い、不安だった気持ちが一気に軽くなった。
席に着けば須藤先生が今日の予定を話し始める。
今日は始業式だから、これから体育館で式典を行い、それが終わったら早速授業に入るそうだ。


「始業式は十時からだからそれまでには体育館に集まっとけよ。じゃ、解散」


在校生には特にこれといった説明はない様で、須藤先生は解散宣言をしてそのまま教室を出て行ってしまった。
オレが前まで通ってた学校とそんなに変わりないと思っていれば、近くの席にいたクラスメート達が一斉にオレに振り向いてきた。


「月ヶ瀬君ってどこの学校から来たの?」

「何か部活とか入る予定?」

「教科書とか大丈夫?貸してあげようか?」

「好きなもの聞いてもい〜い?」

「……え、ええっと……」


質問してくるクラスメート達は揃いも揃って顔が良い奴や可愛い系とかが多い。
なんなのこの学校、本当怖いんだけど。眼福すぎて。
答える暇なく質問攻めをされて、どうしようかと思っていれば「ちょい待ちぃ」と聞き覚えのある声が助け船を出す。


「そんな一遍に聞いても困るだけやん。落ち着きぃや」

「う、宇高ぁ〜……!!」

「洋平ちゃん、月ヶ瀬と知り合い?」

「寮のお隣さんや」

「そうなんだ。良いなぁ、月ヶ瀬君!!宇高君とお隣で」

「て事は岸谷君とも?!羨ましいー!!」


きゃあきゃあと騒ぎ始める一部のクラスメートを見て、あぁ……ここにもいるのか二人のファン(?)が……。
そう思っていれば岸谷が「ごめんね」と謝る。


「気にしてないよ。因みに前は○×高校に通ってて、運動神経そんな良くないから部活は考えてないかな。教科書とかは岸谷達に聞いてたから大丈夫だし、好きなものは……なんだろ?」

「あはは、何それー」


オレの答えにクラスがわっと明るくなった。
まさか好きなものっつーか好きな事っつーのが男探しですとかそんなん言えるか。いや言っても大丈夫だろうけどさ、この学園でなら。
でも初日からそんな発言は流石にどうだろうと思い控えておいた。
そのあとも質問の受け答えを繰り返して、クラスに馴染めた様で安心した。




頃合いを見てオレ達は体育館に向かう。
教室の外でもやっぱり二人に注目する生徒達がいて、その中にオレに向けての反応も少なからずもあった。
でもそれは悪いものではなく「あれが転校生か」とそういったものだったから良かった。
体育館に着けばそこには既に集まっていた生徒達で賑わっているが、体育館自体が大きい構造で窮屈感はあまり感じなかった。
入寮日から思ってたけど、ここ結構お金のかかってる学園だよな。
事務室のおじさんも「常に綺麗に努めている」って言ってたし。
凄いなと思いながら整列するよう、アナウンスが流れたから二人とは一旦離れた。
といっても出席番号順だから数人挟んでの距離だけど。
全生徒が整列し終わり、静かになってきた所で始業式が始まった。



2015/7/25.


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あきゅろす。
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