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『向日葵の咲く頃には』
お隣さん


眼鏡男子の部屋を出て慌ててエレベーターに乗り込む。
足音はオレの分しかなかったから付いて来ていない事に安心した。
そのまま自室のある階まで下りて行き、部屋の鍵を開ければ下駄箱の上に置手紙があった。
それは部屋まで案内してくれた管理人さんからので、左の部屋の片付けやシーツ類の洗濯等の事が書いてあった。


「"とりあえず無事な右側の部屋を使用してください。洗濯中のシーツの替えはあとで持って行きます"……ね。なんか気まずいな……」


右側の部屋の前に段ボールの山が出来ており、管理人さんがわざわざ移動しておいてくれた事が一目でわかった。
ありがとう、管理人さん。これからオレ、頑張って荷解きするよ。
心の中でお礼を言って、オレは早速一番上の段ボールを開封していった。







荷解きに集中していれば、ぐうぅ、と腹が鳴った。
腹を擦りながら取り付けられている時計に目をやれば、時刻は何時の間にか七時半を回っていた。そりゃ腹も減るわな。
食事は自炊でも構わないらしいが食材が全くないから食堂で済まそうと立ち上がれば、そのタイミングで部屋のチャイムが鳴り響いた。


「誰だろ?……あっ!!まさか眼鏡男子じゃねーだろうな」


もしそうで新たなMを連れていたらどうしよう……、超困るんだけど。
あ、別にオレの心臓が持たないからって意味じゃねーからな。決して!!うん!!
そう自分に言い聞かせながら恐る恐るドアを開ければ、そこにいたのは眼鏡男子ではなく、小豆色の髪をした背の高い男が立っていた。
ドアが開いた事により、目の前の男は表情を明るくしてにこりと微笑む。


「……天使がいる」

「え?天使?」

「あっ!!いや、なんでも……!!こっちの話です!!……ところでどちら様ですかね?」

「あぁ、突然ごめんね。オレの名前は岸谷 淳一(キシタニ ジュンイチ)って言います。隣の部屋の住人で、挨拶に来たんだ」

「あ、お隣さん……」


お隣さんの外見を頭の先から爪先までじっくりと見たが、ここはなんなの?本当にイケメンしか存在しないの?イケメンはここに集まる規則か義務があるの?意味わかんないよ格好良いよなんなの?!
しかも雰囲気や喋り方でわかる優男とか、眼鏡男子の衝撃的な出会いのあとだからか凄く心休まる。
「オレは……」と名乗りながら握手をしよと手を出すが、優男こと岸谷君の後ろに誰かがいる事に気付き、誰だろうと覗き込んだ。
覗き込んだが、相手もオレの動きに気付いたのか、更に隠れる様に回り込む。
岸谷君が「コラコラ」なんて優しく言いながら隠れている人物をオレの前にずいっと差し出してしまう。
目の前に現れたその人物は、華奢な体型に真っ白な肌、薄紅梅の少し長めに伸ばされた髪を緩めに二つに縛り、視線はまだ合ってはいないが大きな目を伏せていて、でも可愛らしい顔立ちなのが一目でわかる、服装も見た目同様に可愛らしい絵がプリントされ、レースの付いたピンクのシャツに黒のショートパンツ……どう見ても女の子にしか見えないんだけども……?


「女の子……?」

「残念、ここ男子校。ほら挨拶しなよ」

「……宇高 洋平(ウダカ ヨウヘイ)」

「あ……うん。オレ月ヶ瀬 慎です。初めまして」

「はは、ごめんね。洋平ちょっと人見知りというか……」

「いやいや気にしてないよ。にしても宇高君、本当に女の子にしか見えないね」

「良かったね洋平。褒められたよ」


宇高君の頭を撫でながら岸谷君が言えば、俯いていた宇高君がのそりと顔を上げ「……おおきに」と、ぼそりと呟いた。
宇高君の頬が仄かに赤くなっている事と服装を考えて、恥ずかしいとかではなく、喜びで赤くなっているんだろうと予測する。


「わ〜!!可愛い!!ここ来てからイケメンしか見てないから本当可愛い!!」

「……え?」

「え?」

「……気持ち悪く思わへんの?」

「気持ち悪く……?全然!!その格好だって似合ってるし可愛いよ?」

「…………おおきに」


ぷいっと顔を背けられたが、照れ隠しだという事がわかった。
本当に宇高君可愛いなぁ。関西弁?も良い味出してる。
岸谷君と並ぶと身長差や体格も相俟って余計に可愛く見えてしまう。
岸谷君の話によれば宇高君は女の子の格好をするのが好きな、所謂"女装男子"らしく、部屋着から出かけ着に関しては完全に女物らしい。
制服姿の時は下着だけ着用―――男性用にそういう下着があるらしい―――してたみたいだけど、周りの視線もあってやめたらしい。
正しい判断だと思う。思春期男子には女装といえど可愛い顔立ちなら一発でアウトだろう。
ただそれだけではなくて、女装しているのを気持ち悪がったりと批判する人も少なくはないらしく、それも理由の一つだと言った。
オレは別にそういった事への偏見とかはないから―――場合によっては、どきどきはするだろうけど―――そのままで良いと思う事を伝えれば、宇高君は はにかんで頷いてくれた。


「それで本題だけど、月ヶ瀬君はご飯食べた?」

「食べてないよ。お腹空いたから食堂行こうとしてた。てか呼び捨てで良いよ?」

「そう?じゃあ遠慮なく。こっちも呼び捨てで構わないから。で、オレ達も食堂行くんで誘いに来たんだけど、一緒にどう?」

「マジで?良かったー、オレ絶対迷う自信あったから助かる」

「嫌な自信やな。てか管理人さんが"お隣さん同士、仲良くね〜"言うから仕方なくや」

「おぅふ……。管理人さん抜け目ないぜ……」

「こら、洋平!!」


「言い方!!」と叱る岸谷と意外とはっきり物申す宇高に良い友達になれそうだ、と安心した。



2015/6/15.


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