『向日葵の咲く頃には』
2
指の間を摩られる事ほんの数秒、相手がオレの耳元に唇を寄せて低い声で囁く様に話し出す。
「さっき部屋で羨ましいとか言ってたよな?」
「―――――…ッ!!」
まさか小声で呟いた事が相手の耳に届いてたなんて……!!
管理人さんには聞こえてなかったみたいなのに、管理人さんより距離のあったこの人に聞こえてたとか、どんな地獄耳の持ち主なの。
どうしよう、どうしよう……そう焦る中、耳元に届く相手の息遣いと直ぐ傍に感じる体温が思考を鈍らせて上手く頭が働かない。
今日こんな感じになるの二回目だ……ナニコレ人生初体験ですよ。
耳元にある唇は更に距離を縮めてきて、直接触れてしまう程の距離まで来てしまった。
「オレと遊びたいんじゃねぇの?遊んでやるから上がってけよ」
「……ふぁ、ッ……」
近距離で囁かれる低音で心地良い声が腰に響いて、変な声が出てしまった。
びっくりして思わず口を噤めば、相手も驚いたのか一瞬息をつめる様な音が聞こえ、間を置いてから「ふっ」と息だけで笑った。
その様子に更に熱が上がり、ぶわわっと真っ赤に染め上げれば、耳元にあった唇が耳の後ろに回り、そして少しずつ、ゆっくりと輪郭を伝い、その流れでオレの顔は上へ向かされ顎をぺろりと舐め上げられる。
「―――ッ!!?」
「お前、反応良いな」
「っ、ちょ……待って!!」
「んだよ」
「あのですね!!オレ、確かに羨ましいとは言いましたよ?認めますよ?でもですね!!だからってオレ出会って即っていうのは怖いと言いますか……!!ってかその前にオレMじゃないんで、痛いのは勘弁なんですよ!!」
涙目で訴えるオレ。
情けないとか言うな、背に腹はかえられんのだ。この使い方で合っているのか知らんが。
じっと真っ直ぐ見つめながら言えば「なんだそんな事か」となんでもない様に言い返されてしまった。
「安心しろ。確かにオレはM野郎の相手もするが、どっちかっていうとプライド高い奴とかノンケの奴とかを弄り倒して遊んでMにさせるっつーまでの行程のが好きだから」
「完全にアウトじゃないか!!」
悪巧みをする……っていうかマジで悪戯っ子ってか意地悪く、且つ色気のある笑みで恐ろしい事を口走る目の前の眼鏡男子……!!
やばい……格好良い……格好良い分、呑み込まれて流される……!!
「お、おおおオレはゲイである事以外は普通の人間なんで!!Mに持って行かれますと困ります……!!」
「気にする所そこなのかよ。変な奴だな。……まぁ、面白いから良いか。気に入ったわ」
「へ?な、何……?」
「痛いの嫌いなんだよな?イヤなんだよな?」
「き、嫌いだしイヤです……ね」
「じゃあ、痛い事しねぇからオレと遊んでけ」
「……ふぇ?!」
つつつ……、と下唇を端から端へと、親指でなぞりながら妖艶に笑う顔がだんだんと近付いて来て―――……
チュッ。
「…………」
「ちゃんとして欲しかったら上手におねだりして見せな」
くすりと笑う、さっきまでオレの唇―――の端っこにあった唇が弧を描く。
近付いてきた眼鏡男子の唇は、オレの唇に重なる事はなく、唇の端っこの方に可愛らしいリップ音を響かせただけだった。
「ほら、おねだり」
「―――ッ!!………だ、」
普通にキスされると思って思いっきり目瞑ってのこの結果に、一人恥ずかしくなって催促された事への返事は涙目になりながらとなった。
「誰がおねだりするかーッ!!」
顏あっついし真っ赤なのもわかりきっているけど叫ばずにはいられなかった。
オレはそのまま勢い良く部屋を出て行った。
2015/6/11.
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