[携帯モード] [URL送信]

『小虎の恋模様』
18


再び見回りを開始した小虎達は、あまり会話もなく黙々と歩いていた。
一通りの見回りは終わったが、何時何処で何が起きるかわからない為、もう一度見回る為に、引き返そうとした時、バタバタと賑やかとは言い難い騒がしい足音が耳に届く。


「あっ!!生徒会長!!」


バタバタと走っていた生徒は、小虎の姿を見て慌てた様子で小虎達の元へと駆け寄ってきた。
なんだか慌ただしく人が駆け寄ってくるなぁ、と頭の片隅で思いつつ、駆け寄ってくる生徒の勢いに肩をビクリと跳ねらせる。


「会長っ!!あの、……あ!!もしかしてそっちの君、風紀委員の子?」

「あ……はい、そうです」


小虎達の元に辿り着いた生徒は、小虎に一度は声をかけたが、傍らに立つ風紀委員の一年生を見て、今度はそちらへと声をかける。
その質問に頷いて見せれば、よかった!!、と安堵の表情を浮かべる生徒は、風紀委員の一年生に何があったかを話し出した。


「実は向こうで誰かが暴行されてるみたいなんだ!!オレ急いで風紀の奴等探したんだけど、近くにいなくてどうしようかと……」


走って乱れた呼吸を急いで落ち着かせながら説明する生徒が、やっと風紀見付けた、と安心した様に話す。
その生徒が説明の最中に"向こう"と指差した場所は、体育館のある方向だった。
詳しく場所の説明を受けると、どうやら体育館裏で暴行行為が行われているらしく、体育館の中では、そこを使用しているクラスが複数いる為、賑わってはいるが、体育館裏というと文化祭中は一般人も生徒も立ち寄る機会のない、簡単に言ってしまえば人気のない、トラブルを起こすのにかっこうの場所といえる内の一つ。
体育館裏も勿論、見回りの指定範囲内に含まれており、だけど小虎は念の為、人気の少ない場所への見回りはしなくて良いと事前に言われていた。
だけど、事情を話してくれた生徒の話だと、近くに風紀委員も生徒会役員も見当たらず、やっとの思いで見付けたと言う。
更にその慌てた様子から、一刻を争う状況らしく、己の都合でここで断るのは如何なものかと小虎は、風紀委員の一年生に、視線を向ける。


「と、とりあえず巽君に連絡入れて……ボク達は現場行きませんか?」

「え、でも……」

「会長サン、怖くないの?」

「こ、怖い、ですけど……、でも行かないと後悔……すると思います」


ギュゥッ、とスカートの裾を掴む小虎の手は、恐怖心と不安で震えていた。
でも、ここで逃げちゃ駄目だ、とも思った。
新歓の時、横にいる吉野によって怖い思いをした。
その時、自分以外にもトラブルに合い、怖い思いをした生徒がいた。
トラブルの内容も怖い思いの種類も今回は全く違うものではあるが、自分しか、自分達しか助けにいけないという状況は同じ。
危ない目に合うとは、思う。だけど、行かないという選択肢を選んでしまえば、被害に合った生徒はもっと酷い仕打ちを受けるであろう。
最悪な事態を避けられるなら、怖いのを我慢して、たとえ何も出来なかったとしても、少しでも役に立てたら良い。
そう考えて小虎は、現場に向かう事を決意したのだ。
それを見て吉野は、会長サンは強い子だね、と笑みを浮かべた。


「オレが言うのもなんだけど、自分だって怖い思いしたのに、やっぱり会長サンは優しいね」

「吉野先輩……?」

「行こう。何かあったらオレも手を貸すよ。……って、役員じゃないオレが手を出したらまずいか」

「い、いえ……えと……ありがとう、ございます」


吉野の言う通り、役員でもない彼に手を借りるのはまずいのだが、いざという時は借りれるのなら、それはそれで助かる。
甘えではあるが、小虎はその申し出を有り難く受ける事にした。


「じゃあ、案内お願いします」


風紀委員の一年生が生徒に案内を頼むと、こっちだ!!、と再び駆け出す生徒のあとを三人は追いかけた。
人混みを掻き分けながら駆け抜けるのは思った通り大変ではあったが、見失わぬ様、必死に足を動かす。


「……気を付けてね、会長サン」

「え……?」


人混みを避けつつ進んでいれば、吉野が小さくそう呟く。
必死になっている今の小虎の耳には聞き取りきれず、聞き返す様な返事になってしまったが、吉野は気にせず続きの言葉を口にする。


「行く事に賛成はしたけど、何が起こるか、わからないからね。油断しない方が良いよ」


真剣な声音で言う吉野に緊張が一層増し、小虎はコクリと強く頷いて見せた。


2017/8/12.



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!