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『小虎の恋模様』
17


「あ、いたいた……おーい!!」


見回りを続けて暫く経った頃、一人の生徒が誰かを呼びかけながら走っている。
人混みを上手くかき分けているとはいえ、危ないに越した事はない為、一言注意を促そうと見れば、走ってきている生徒は小虎達のクラスメートだった。
真っ直ぐ小虎達の元へ駆け寄ってきたクラスメートは、息を整えてから、呼び止めて悪い!!、と謝罪の一言を述べた。


「賀集、仕事ごくろうさん。悪いんだけど、草間ちょっと教室戻ってくんねぇかな?」

「は?なんでだよ。オレ今休憩中だぞ?」

「それはわかってるんだけどさー。なんか軍服姿の生徒が給仕してるって聞きつけた客が来ててさ。ウチのクラスで軍服って草間だけじゃん?お前が良いってきかなくって……」


はぁ、と盛大な溜め息を零しながら説明するクラスメートに草間もウンザリした表情で、いるよな……そういう客、とボソリと呟いた。
見回りの最中、どこもトラブル等はないと思っていたが、どうやら自分達のクラスで困った事が起きてしまった様で、小虎も苦笑を零さずにはいられなかった。
チラリと小虎の方へと視線を向ける草間に、小虎は草間へと声をかける。


「草間君、行ってきて大丈夫だよ?……あ、でもボクも一緒に行った方が良いのかな?」

「やー、賀集はまだ見回りあるんだろ?草間が来てくれれば解決するだろうから、大丈夫だぜ?」

「いやでも……」


言い淀む草間は今度は吉野へと視線を流す。
それに気付いた吉野はニコリと人当りの良さそうな笑みを草間に向ける。


「まったく、心配性だな。言っただろ?あの時はいろいろとゴタゴタしてたからって。今はそんな気はないし、それに風紀の彼もいるんだし、オレ達に任せて草間は戻りなよ」

「……あんたに任せられないから渋ってんだろーが」

「クラスの出し物に貢献するのも務めでしょ?」


ニコリ、傍から見れば好感の持てる笑みでも、草間には憎たらしい笑みにしか見えないそれで、お互い一歩も譲り合わない勢いで見合う二人に、風紀委員の一年生はオロオロと二人を交互に見遣り、事情を知らないクラスメートは、なんかあったの?、と小虎に尋ねるが、返答しづらい内容を説明しなくてはならない為、……ちょっとね、と言葉を濁した。


「草間君、大丈夫だから教室行って?皆も困ってるかもだし……」

「……お前、本当に大丈夫か?」

「う、うん。ボクの見回りの範囲、人の多い所だから多分、大丈夫。……それに、風紀委員の人もいるし」

「…………絶対人気の少ねぇ所に吉野と行くんじゃねーぞ?」


最後の方はお互いヒソヒソと内緒話をする様に話し合い、草間も苦悩の末に渋々といった感じで教室に戻る事に決めた。
その事にほんの少しホッ、としつつ、ちょっとの不安が胸の中に広がったが、言った手前、迷惑をかけない様、困らせない様、心配かけさせない様に気を付けようと小虎はグッ、と気を引き締めた。
そうして心配そうな表情で立ち去る草間とクラスメートを見送った小虎と、それを少し首を傾げながら見守っていた一年生、そして吉野は、二人の姿が見えなくなるまで暫くの間その場に佇んでいた。


2017/7/29.



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あきゅろす。
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